阿川:
慶應義塾はやはり福澤先生が出発点ですよね。「独立自尊」などいろいろな言葉がありますが、その中で「自我作古」という言葉は、先に挙げた『慶應義塾之記』に書いてあります。
江戸時代、蘭学を始めた人達には、福澤諭吉の先生に当たる緒方洪庵や、解体新書を作った杉田玄白、前野良沢などがいますが、この人達は何も前例がないところで、オランダ語の本など読んでもよく分からない。それでも自分たちの力で苦心の末、何とか全体を理解したわけです。頼るものがない、本もない、教える人もいないけれど、自分達で新しい学問を始め、一つの歴史を築いたのです。まさに「我より古を作る」。それまでには一つも存在しなかった、私塾という形の新しい学校、慶應義塾も同じなんだと言っているのです。
今のSFCも同じです。それまでSFCのような学校はなかったし、いまだに試行錯誤をしている。なんとなく危ういところもありますが(笑)。でも、だんだんに成果が上がり、あなたのような卒業生が育っていって、新しい学生が入ってきて、そこから、SFCという学校がまた発展していく。形になっていく。
杉山: なるほど、それが型になると?
阿川:
そうですね。型ですね。しかしいったんできた型は、壊さねばならない。だから「型破り」って、言うのですよね。ただ、「型破り」をするにも、破る「型」がなければならないのが、おもしろい。では型をつくり、型を破るには、何が必要か?SFCはどんな人を求めているのか?これは難しいけれど、ある水準の知力と品格は当然のことながら、さらにいえば積極性と好奇心ですね。A.O.で受けてくる人は特に「なんかやりたい」と、言いますね。闇雲でもいいんですよ。そんなことできないじゃないか?と言われても、めげないでやるんだと。そうした積極性と好奇心がほしい。
杉山: 僕も好奇心でここまで来たようなもんですから(笑)。
阿川:
フェデラル・エクスプレスの会社を興したフレデリック・スミスは、大学であのビジネスモデルをレポートにまとめて出したら「D」がついたんだってね。
杉山: そういう話ってよくありますよね。
阿川:
それでも負けずに、自分のビジネスモデルを実行するために会社を作ったら、うまくいったんですよね(笑)。あれもHUBの思想でしょ?一度テネシーに集めてそれを一気に他のところに送る。ただし、元気とアイディアだけでは、何事も成功しない。生きていけない。世の中そうはうまくいかなくて、何かをやるには、基礎的な力を徹底的につけないといけない。
私の法律の授業を聞いて「これはもっと真剣に勉強しないとまずい」、「ちゃんと法律を勉強しないといけない」ということで法科大学院に行く……。法学部に入って法律の基礎をまずやる。そのあとで、現実の問題に法律をあてはめてみる。逆に、実際の社会で起こる法律の問題に取り組んでみてから、改めて基礎から勉強をはじめる。どっちが先でもいいと思うんです。
例えば、冨田さん(環境情報学部の冨田勝教授)は、ITやっていて「僕はゲノムをやりたい」ということで医学部入って医学博士号をとっちゃった。必要だから取ったんですよね。そういう元気と、積極性と、それから何かの問題意識を持っている人は、やっぱりSFCに向いていると思いますね。で、それだけで満足しないで、自分の目標を実現するために必要な勉強をきちんとするとなると、当然学部だけの勉強で専門家になれるということは絶対にないので、上の学校へ行くか、あるいは企業や官庁に入って、さらに鍛える。
では学部の4年間で何をするかと言えば、「考えることはどういうことか」を考える。ただただひたすら考える。「考える力」が身についていれば、そしてある水準の知力があれば、専門分野で十分やっていける。例えば会社で働く、バイオの分野をやる、医者になる、政府に入って何かやる。何でもいいのですが、そのときに「おう、コイツは使える」「コイツは幅があり、明るくて積極的だ、考える能力を身につけている」、そういう人が、ちゃんとやるんですよ。そうした能力をもつ学生を育てるのが、私の考えるSFCの、特に教育面での目標ですね。
研究面はこれとは違う話です。ただ研究者をめざす人でも学部で何をするのかといったら、4年後ここを出るまでに、ある問題・課題への強い思い入れと、興味、そして積極性と同時に、それを実現するための基礎力を身につけてほしい。やはり要は考える力です。それを身につけて出てくれると、いいのではないでしょうか。