阿川:
論語の世界でね「学びて思はざれば即ち暗し、思ひて学ばざれば即ち危ふし」という言葉があります。つまり、一生懸命勉強をしているのに社会のことに何にも興味がない、視野が狭い。それでは暗くて発展がない。けれども逆に、現実の社会のことばかりに興味があって、なんかしなきゃといつも言っているのに、基礎を勉強せず、考える方法も力もない人は、危なっかしい。やたらに忙しい人、仕事ばかりしている人は、魅力がない。同時に、勉強ばかりしている人も魅力がない。
福澤先生の言葉にも、「学問に凝るなかれ」学問はもちろん好きになってほしいし、全力で取り組んでほしい。でも、それに耽溺してはいけない。それがすべてではない。学問は、どんどんしなさい。しかし、どこかで距離感も持たないといけない、と。これはね、とても透徹した言葉ですよ。
杉山: おー!なるほど、学問とのディスタンス。
阿川:
親や教師は勉強しろと言うでしょ?その通りなんですよ。しなくていいというのはウソなんです。私も息子たちに、勉強しろとやっぱり言いますよね。しかし勉強をし過ぎてもいけない。あまりにも好きだとね、世の中暗くなっちゃう。
杉山:
勉強ばっかりでも…ですね。
阿川:
物事の二面性を常に意識することって、大切なんですよ。例えば、SFCがよくて、三田がだめということは絶対にない。日本の伝統では「型」というものを大切にしますよね。今年SFCに入学したある一年生が、「学ぶ」という言葉は、「真似ぶ」から来ていると教えてくれました。つまり先輩の真似をして、「型」を身につけることですよね。「型」の大切さについて、SFCの人は往々にして知らないけど、型のないまま世の中に出ちゃうとまずいんです。
「型破り」という言葉があるでしょ?「型破り」な研究や芸術は面白いよね。でも「型破り」って、よく考えると、「型」がなかったら破れないんだよね(笑)。
杉山:
先生が著書で例に挙げている、法律もそうですよね。
阿川:
そうです。進歩派っていうでしょ、Liberal。Liberalっていうのは、守旧派がいるから成り立つんだよ。
杉山:
いないと成り立たないですからね(笑)。
阿川:
いないとだめなんだよ。伝統はよくないっていう人がいますね?でも伝統があるからあんなことを言っていられるので、世の中古いことがいっぱいあって、矛盾だらけだから、それをよくしようって、頑張る気になるわけ(笑)。
杉山: つまり力がバランスすること……。