
杉山: 先生の信条についてお聞かせください。
阿川:
うまく言えませんが、「現実的であると同時に理想主義者でありたい」ということだと思いますね。つまり、理想だけで生きている人間って、奇麗事だけを言う傾向があって、そればかりしていると嘘になってしまう。一方、ただただ現実のことだけをやっていると、それだけで終わる、行き詰っちゃう。僕のバックグラウンドからいうと、キリスト教に触れる機会が何度かあって、聖書も読み、『ユダヤ人の歴史』という本も訳しましたので、ユダヤ教にも大変興味があります。
この本を書いたポール・ジョンソンは、イギリスのカソリックの人ですけどね、とても良い本で、私も3分の1くらい訳しましたが、その序文の「私はなぜ、ユダヤ人の歴史を書いたか?」ということを言っている。その最後に、ユダヤ人はどんな酷い目にあっても、ナチスから大変な迫害を受けて600万人が殺されても、自分がこの地球上にいることには何か意味があるのだと信じている。
この本の最後には、だから「みんな雄雄しく生きなさい」、「胸を張って歩いていきなさい」とあるのです。私は歴史上、ユダヤ人がいつも全て正しかったとは思わないし、そもそも聖書には間違いを犯すユダヤ人のことが繰り返し繰り返し書いてある。けれども、もしかしたら私もここ、この地球上に存在する、そのことに何か意味があるのかなと思いつつ、とりあえずは、目の前の仕事を明日までに(笑)やらなきゃいけない。今日の委員会をどうしようか?今晩のおかず買って帰んなきゃいけないとか(笑)。そうした小さなことはおろそかにしない。自分がやっている一つ一つのことには大した意味はないのだけれど、でもそれを一つ一つやっていることには、何か意味がある。そんなリアリティと理想みたいなものを、両方持っていたいなと。どっちかだけだとダメなんじゃないかなという気がします。
私が昔ソニーにいたとき、みんないろいろ会社に対して不満があって、文句を言いあっている。気が合う上司がいて、ソニーはこうあるべきだ、あああるべきだと、その人と夜の9時くらいまで話してて、それでおしまいに、「まあ、とりあえず明日の準備でもするか」(笑)と彼が言ったのが、とても実感があってね。
学部長の仕事も、なんでやっているのか、よくわかりませんが、とにかく今日の仕事はベストを尽くしてやろうかなと。そう思っているかもしれないですね。結局自分は、多分、大したことはしないで、「いやだいやだ」と、ぶつぶつ言いながら、そのうち死ぬんだろうなと。でも決してだから不幸だというのではない。そんな感じなんですよね。あんまり大きな理想、大きな無常観に走ることはないのですよ。
学部長が終わったら、どこかで引退して、海の上でボーっとしたいと思います(笑)。
杉山:
じゃ2009年ですね。SFCが20年を迎える1年前ですね。
阿川:
そう、ああ、阿川って人がいたっけ、知りません、覚えていませんねってね(笑)。
杉山:
お忙しい中、このようにお時間を作っていただきありがとうございました。
阿川: いいかげんな話でしょ?(笑)
杉山:
そんなことないですよ、ゆっくりお話できる機会は滅多になかったですし。
阿川:
SFCの卒業生はまだ若いから、彼らが活躍してくれるのが我々にとって最大の財産ですよね。それ以外ないですよ。
杉山: SFCを出たから今の会社があるわけですから。
阿川: そういってもらえると、うれしいです。
杉山: ありがとうございました。

阿川先生のお話の中で、「問題発見・問題解決」のためにはまず、「考えること」が重要であること、また「物事の二面性を意識する」ことの大切さが最も印象に残りました。「徹底的に考える」というプロセスは、めまぐるしく変化する環境で生きていく上でも大切なことだと納得しました。
SFC未来創造カリキュラム慶應義塾は150年の歴史の中で、社会を先導する人材を多く輩出してきました。その義塾が新しい時代を見据えて創設したSFCは「未来を創る大学」を使命に掲げ、そこで育つ人材を、自ら未来を切り拓いていく「先導者」と考えます。SFCでは先導者たる能力を、「創造」と「先端」を2本柱にしたカリキュラムで培います。
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