杉山: 最後になりますが、今回の「私の哲学」シリーズは僕がNYで剣道を始めたことで知った「守破離」の考え方がきっかけです。
内田: 「守破離」ね。
杉山: 僕は『守破離』という論文を去年書いたんですよ。日本貿易会が主催した、第2回「日本貿易会賞」の「ジャパン・ブランドの可能性」というテーマの懸賞論文で優秀賞を受賞しました。
論文を書くために自分なりに「守破離」について調べたのですが、「お手本を守り、その手本を完全にマスターするのが『守』の段階。またその基本に基づき自分なりの創意工夫をして、自分としての確固たる技法やスキルが身につくのが『破』の段階。それを更に極めるのが『離』の段階。」であると。茶道の世界や日本の「○○道」と「道」という漢字がつくものに共通する考えだということが分かったのです。
弊社インターリテラシーの成長のために、グローバルな目線を持っている方にその大切な信条をお聞きし、社内で共有して、よりよいサービスにつなげようとこのインタビューシリーズを企画しました。先生の大切にしておられる信条についてお聞かせください。
内田: 一言で言うのは難しいんだけれどね、「守破離」とはいい言葉を使ったね。実はこの間下関の大きな会議で「教育」という問題を扱った時に、僕は、教育は「守破離」ですよと、言ったんですね。で、最初みんな分からなくて説明をしたんだけど、まあ君が言った通りのことなんですね。じゃ、今の教育には何が欠けているのかというと、「守」が欠けているんだと。といったわけ。
観察し、研究し、勉強、いわゆる、モノを人から教わっていくという態度が全く欠けているねと。それがないと、離れることも破ることもできないんだね。「破格」ってことばがあるでしょ? 破格の人物だとか、破格ってのは格を破るってことだろ? 格を知らなきゃ、破格はできないんだよ(笑)。
杉山: おっしゃるとおりですね!
内田: ところが、格を知らないうちに破格ばかりやるんです。『普通のデザイン』でも書いたんだが、格を知ってから破格をしなければならない。デザインには日常的デザイン、脱日常的デザイン、超日常的デザインがあるんです。脱日常的デザインとはあそびの時間、精神の回復の時間のためのものだね。これは日常のやや退屈な時間に対して少しはなやかな時間になるね。
そうすると、デザインもはなやかになるんです。ただ、この時間は人が生きるための時間の2割りぐらいが適当なんだ。しかし、多くのデザイナーは脱日常的デザインをしたがる。やや派手なデザインが出来るし、雑誌などに取り上げられ注目をあびるから、そればかりを考えている。そうしたはなやかなデザインは、きちっと日常のデザインが出来ないとできないんです。
ちなみに最も難しいデザインとは日常のデザインなんだね。日常のデザインはいいかげんなデザインをするとすぐバレちゃうんだ。そして、[美]とは日常のなかに宿っているんだ。特別なものは一瞬はなやかでも、ときにあきてしまうものも多くある。日常の美とは常に無理のない美でなくてはならない。デザインとは人の心に向かって行うものだからね。
杉山: なるほど、僕も『守破離』の論文で、日本のブランドは、「守破離」の「守」の部分が大切だと書いたんですよ。先生のご著書でも、文化は継続されてその文化の形ができると。
僕が考えた守破離は「連結の価値」だと考えたわけですね。それが次の世代につながる。例えば修行をする時にも板前も最初は流し台から離れない、包丁も持たせてもらえない、しかしそのようなことが日本の文化の大切な部分でもあり、次のステップのためには形を変わっていくと思いますが、そういう価値は日本の文化では必要なんじゃないかと。
内田: ああそれは大事なことだな。まさにその通りで、守破離の「守」は日本の場合、頭で覚えるだけじゃなく身体全部を使って「守」を覚えるという教育を受けるわけだな、だから頭だけの教育だけではなく身体全体で「守」を学ぶわけですよ。身体すべてですね。ただ、「守破離」の中ですばらしいのは「破ること」、「離れること」をよしとしていることがものすごく大事なんだね。
杉山: 破るべきだと。
内田: そうそうそう、つまり型を一生ずっとやっていなさいとは言っていないわけだよ(笑)。今後破って、離れなさいと言っているわけだから。ここで初めて本当の意味でのクリエイティブということが出てくるわけで「守破離」のすごさというのはそのところにあるんだよね、色々な文化の。
杉山: ベースは全部そこなんですね。
内田: 全部そうです。みんなそうなんですよ(笑)。
杉山: 僕もインターリテラシーも今日一緒に同席した鮎澤も今は「守破離」の「守」の段階で気合を入れて毎日がんばっています。僕はこれから一生懸命仕事をして、いずれは一戸建ての家を持ちたいと思っています。その時は是非、先生にインテリアをお願いしたいなあと夢見ています(笑)。今日はお忙しい中をこのようにお時間を作っていただき本当にありがとうございました。
内田: がんばれよ。お前らまだ若いからいいよ。これからお前達が社会を作るんだぞ。しっかり若いのを育ててくれよ。
杉山: どうもありがとうございました!

物事を「観察」をすることの重要性、またその際の「価値観」は多様であるというお考えは、今後、弊社のサービス提供の上でも大切にしなければならないポイントだと思いました。内田繁先生が20代、いろいろなことをお考えになり、それらを作品として表現されてきたことが伝わってきました。また、「守破離」の「守」の部分がどんな仕事においても最も大切な部分だと改めて感じました。