
Kage: 帰国後、どうしても出店したい物件がありました。当時、事務所の近くの商業施設ということもあり、建設前から何度も交渉を重ね、やっとの思いでコンペに参加することができました。トライアルで10日間ほど出店させていただき、売上を競うことになったのです。
そんな矢先、私の描いたカリカチュアにクレームがきました。「娘が泣いている、この絵を描いたヤツはだれだ!」と、男性がものすごい剣幕でお店に来たんです。2時間ほど前に描いた女の子の父親でした。出来上がった絵を見ての反応は良好だったのですが、ご自宅に帰って泣いている女の子を見かねて、お父様がいらしたんです。
杉山: 小さな女の子にとったら、カリカチュアの誇張が「おもしろい!」とは思えなかったのでしょうね。
Kage: 女の子のお父様の怒りはそれは大変なものでした。私はアーティストとしての誇りをもって、ユニークな絵を楽しんでもらいたいという気持ちで真剣に描いていましたが、女の子を泣かしてしまっているのは事実、私は異なるアプローチで女の子をもう1度描き直すチャンスをくださいとお願いしました。
杉山: なかなかできることではないと思います。
Kage:お父様は『「お金だけ返す」と言われたら本気で殴るところだった。よろしくお願いします。』とポケットに忍ばせていた娘さんの写真を私に手渡し、怒りを収めてくださいました。父親として娘を守ろうとされたのだと思います。その場で私は誇張を抑え、明るいパステルカラーを背景に入れた絵を描き直し、額に入れてご自宅にお持ちしました。そして女の子の前で土下座をしました。新たに描いた絵を見て女の子はキャッキャと飛び跳ねて喜んでくれました。お父様もまた、ありがとうございました、と帰り際に門まで送ってくださいました。
一件落着のようでしたが、さすがにその時は落ち込みました。商業施設にも迷惑をかけてしまって、これで出店の可能性もなくなったと思いました。しかし、結果、商業施設での出店を勝ち取ることができました。
杉山: コンペで勝ち取ったということは仮出店したテナントのなかで売上が良かったということですか?
Kage: いえ。売上の良いテナントは他にもありました。私自身理由が分からず施設側に尋ねたら、テナントのセットの組み方や営業姿勢を見てくださり、一緒にやっていこうと思ってくださったそうです。そして何よりクレームをくださったお父様からのお手紙が決定打となったそうです。「クレームは付けたけど、その時の対応が誠実で胸に届いた」と。
杉山: Kageさんの誠意が届いたのですね。もっとカリカチュアの誇張を個性としての共通認識があれば、カリカチュアは人の心をワクワクさせるものなのに、日本にはまだない感覚なのでしょうか?
Kage: カリカチュアでもっと楽しんでいただきたい、感動していただきたいという思いで日本に持ってきましたから、カリカチュアが文化として根付くよう、頑張りたいですね。