『change.org』の日本代表として、声を上げることに慣れていない日本人の意識を変えていこうとしているハリス鈴木絵美氏。『change.org』参加のきっかけや、今後の夢などについてお話しいただきました。

Profile

第22回 ハリス 鈴木 絵美(はりす すずき えみ)

change.org 日本代表
イェール大学卒業。アメリカ人の父と日本人の母の間に生まれ、高校まで日本で育つ。大学卒業後、マッキンゼー&カンパニーに就職。2008年、バラク・オバマ氏の大統領選挙運動キャンペーンにボランティアとして参加する。その後、ソーシャルインキュベーター企業Purposeの立ち上げに参画、同サービスの成長に貢献。2012年に帰国。change.org 日本代表に就任し、現在に至る。

※肩書などは、インタビュー実施当時(2013年10月)のものです。

自分の意見で社会を変えていくのは楽しい

『change.org』は、どんなに小さなことでも、社会を変えたいという思いを形にするソーシャル・プラットフォームです。私はここを通じて、自分で何かを立ち上げ、何かを始めるファースト ステップのハードルを低くすることで、もっと多くの人が社会に参加し、自分の国の出来事だという自覚を持ってほしいと思っています。

「ビヨンドトゥモロー東北未来リーダーズサミット2013」で、自分のアクションによって政府に影響を与えられるかどうかの問いに対し、日本の8割以上の高校生は、まったく変えられないと思っているという報告がありました。私は、変えなくてはいけないのは、これだと思います。8割の高校生は、今の大人たちを見てそう思っている。周囲の大人たちに、自分の意見で政府が変わったという経験が一度もないし、そもそも自分にそこまで力があると思っていない。自分に自信がないことが、日本の一番の問題だと思う。才能がないわけではない、教育がないわけでもない。ただ、何かを変えようと考えたことがなく、自分の意見を価値あるものと思っていない。それがすごく残念だし、この国のポテンシャルを自分たちで制限しているように感じます。私も以前は、社会に対して無関心でした。だから、その無関心の状態がわかります。でも、自分の意見で世の中を変えていくのは楽しいことだと知ってもらいたい。ただ機会がなくて、いろいろな理由があって無関心なだけ。みんな自分なりに頑張って生きていることは理解できます。そういう風土の中で、個人がアクションを起こせる場所として『change.org』を浸透させたいと思っています。

「言っても何も変わらない」。まずこの空気を変えなくてはいけない。そのためには、changeの成功事例を少しずつ積み重ねていくこと。1つの成功を見て、他の人がI can do it, too.と思って真似をしていく。インターネットだからこそできることだけれど、1つひとつが広まって大きなムーブメントになるといいですね。

ハーフとしての私ができることは、日本人にはしがらみがあって言えないことや、自分に自信がなくて言えないことを代わりに言ってあげること。この顔だから許せることがある。そこから、だんだん自分も言っていいんだという雰囲気にしていくことだと思います。

change.org参加のきっかけ

『change.org』に加わることを決めたのは、アイスランドへの旅行がきっかけです。前の年に行ったアイスランド旅行がとっても楽しくて、オーロラを見たいと言っていた母を連れて再び訪れることになりました。その旅行で、年を重ねていく母を見て危機感を感じたんです。すでに10年アメリカに居たので、このまま親を1人日本に残して、自分はアメリカに居ていいのかとメランコリックな休みを過ごしました。そうしたこともあって、ニューヨークに戻ったその晩アプライしました。ちょうどリクルート担当の人がニューヨークに居て翌日会うことになり、3時間ぐらい話をして完全にchangeのビジョンに魅了されてしまいました。タイミング良く担当者がニューヨークに居たことも大きいですが、アイスランドでの母との時間が、何かしなくてはという思いを駆り立てました。履歴書に添える手紙を書いているとき、自分のやるべきことが頭の中でクリアになり、今までのアメリカでの経験と以前働いていたときのスキルを使って、新しいところで試してみたいという気持ちになりました。

当時の日本はまだ選挙でネットが使えなくて、ネットを使った市民運動も盛り上がっていなかったので、changeをやったらどうなるのかコンテクストを試してみたかったのもあります。日本でchangeを成功させることは、はっきり言ってとても難しい。テクノロジーといった問題ではなく、人のマインド セットを変えなくてはいけないようなことだから。でも、日本で成功すれば、きっと他のアジアの国々にも影響を与えることになるし、そこから絶対にいろいろな学びが出てくると思っています。

批判も多い

サイトを立ち上げる前、周囲から「署名なんて」という言葉を何回聞いたことか。change自体や、changeのやり方を批判する人もいれば、私たちが個人情報を売買しているといった陰謀論を言う人までいます。最初は釘でグサっと刺されたような感じでした。批判を普通に発言してくれればいいのですが、個人を攻撃するような言葉で言われるのが辛いです。あるときスタッフの一人に電話して、「ひどいことを言われてめちゃ落ち込んでいるのだよ」と言ったら、「そんな人の意見を聞いている時間はあなたにはないですよ」と言われて。確かにそうかもと開き直りました。私からの説明に納得する人もいるけれど、みんなを満足させることは不可能であって、自分がやっていることを理解してもらえないなら、それは仕方がない。ポジティブに取り込める人に働きかけないとキリがありません。健全なキャンペーンを1つでも多く動かして、本当に社会を変えたい人をサポートした方が私も気持ちがいい。ネガティブな人たちに理解してもらうには、changeが成功すればいいんです。

アメリカの市民活動は、あえて対立を作っているようなところがあります。英語がダイレクトな表現をする言語だからかもしれませんが、はっきり主張して対立することが当たり前。日本は9割が日本人なので、その中で対立を作ろうとしてもIt's feels kind of awkward.そよ風を起すように、相手が気づかないうちに変化に同意しているようなやり方が、日本には合っていると思います。

日本の中で変えていきたいこと

私が日本に戻ってきたのは、若い人を元気づけたい、女性を後押ししたいという想いがあったからです。日本に帰ってきて強く思うのは、女性が活躍しづらい環境だということ。特に政治に関しては、It's soおじさんチック(笑)。国会中継を見ていても、同じスーツを着た人ばかりで、日本人の多様性を政治が反映していないと思います。あとは性的マイノリティ、ゲイ・ライツに関して私に何ができるのか。アメリカだと、市民団体の活動に加わることで自分一人の力も大きなうねりになります。日本はそこまでゲイ・ライツのムーブメントが進んでいるわけではありません。changeでキャンペーンをやってもなかなか広がらないし、他に何をすればいいのかというジレンマがあります。私が好きな広報やウェブ制作を通して後押しすることもできますが、本業であるchangeをやりながらでは時間が足りません。

あと変えたいのは英語教育かな。すごく素晴らしい人材であっても、会社内のコミュニケーションについていけない。あるいは英語はできるけれど、changeのミッションを信じていないとか、その組み合わせがすごく難しくて。100人いるはずのスタッフ候補者が、英語力の問題だけで10人になってしまうのは残念なことです。テストのために英語を勉強するのではなく、人とコミュニケートするために英語力を身につけるんだという根本的なところで、教育のやり方自体に課題があると思います。たぶん1 キャンペーンでは足りなくて、1つの団体を立ち上げるくらいのことをして、文科省などのマインド セットを変えなくてはいけないと思います。

Start startばかりではだめ。活動はYou have to do it for a long time to have an impact. 大きな組織に働きかけられるようになるには信用も必要です。日本で『change.org』はまだ始まったばかり。長い間続けていけば、いつかきっと市民の声の場所として認知されていくでしょう。これから少しずつ『change.org』を大きく育てていきます。

ハリス鈴木絵美さんとは、「ビヨンドトゥモロー東北未来リーダーズサミット2013」において、同じチームの提言アドバイザーとして出会いました。このサミットでは、最終プレゼンの優勝チームに首相官邸へ提言を持って行くチャンスが与えられると知り、絵美さんと自分たちのチームを絶対に優勝させようと決めました。高校生もその期待に応えてくれ、見事優勝しました。その時の感動は、ずっと忘れないでしょう。

絵美さんと共に過ごした中身の濃い2日間を通して、素敵な人柄に触れ、『change.org』の活動を知り、共感し、今回の「私の哲学」への登場となりました。

changeのこれまで、今後について僕の視点で聞くことができ、とても楽しいインタビューとなりました。僕はチェンジという言葉が好きです。アクションも好きです。これからは、環境変化に対応し行動できることが個人・企業ともに強みになると思います。是非『change.org』のウェブサイトをご覧になってください。

「私の哲学」編集長 杉山 大輔

2013年10月 みどり荘にて  編集:楠田尚美  撮影:鮎澤大輝