日本のカリカチュア第一人者であり、世界が認めるアーティスト。誰もが楽しめるエンターテイナーとして活躍する一方、ボランティア活動を通じて世界の子供たちを支援しているKage氏に、カリカチュアを描いていただきながらお話を伺いました。

Profile

第6回 Kage(カゲ)

カリカチュア・ジャパン株式会社代表取締役社長、兼代表アーティスト。NCN(National Caricaturist Network:国際カリカチュアリスト連盟)アジア大使。 カリフォルニア州サンディエゴを拠点にカリカチュアリスト(似顔絵エンターテイナー)として、全米各地で500件を超えるイベントにて数万人もの人々を描くほか、大リーグスタジアム内にサービスブースを設置するなど、外国人として異例の実績を上げる。2007年NCNカリカチュア世界大会優勝、NCNカリカチュアヨーロッパ国際大会優勝など19の受賞歴を持つ。2007年、『Newsweek』誌の「世界が尊敬する日本人100」に選出される。現在、首都圏を中心に11の店舗展開をはじめ、企業を対象とした商業用イラストや個人受注作品、雑誌の挿絵制作、様々なメディア出演など、カリカチュアを通じて幅広い活動をしている。

※肩書などは、インタビュー実施当時(2009年5月)のものです。

カリカチュアアート

カリカチュアはただ似せるだけでなく、モチーフの内面性も表現するとてもユニークな画法です。一般的に似顔絵というと、そのまま似せた肖像画や、実物よりかわいく描いた漫画タッチのものをイメージされがちですが、カリカチュアは誇張・デザイン・ユーモアを加えて、モデルのチャームポイントや個性を表現する作品です。そのため私は、カリカチュアにおいて下描きを一番大切にしています。下描きは失敗を防ぐためではなく、第一印象をとらえるために行います。ですから30秒以上はかけません。30秒を超えると細部が見え過ぎてしまい、判断が困難になります。一度この形と決めたら、迷わず思い切って大胆に描きます。大抵の場合、第一印象は嘘をつきません。見え過ぎて迷いが生じると絵がぼやけてしまい、likenessを失ってしまうのです。

試行錯誤

2002年に帰国して日本で活動を始めた頃、直輸入ではだめなことに気づきました。日本人の多くは、かわいく描いてほしいという願望があるようです。カリカチュアはこういうものだと説明してもなかなか伝わらず、試行錯誤した日々もありました。壁にぶつかり、「カリカチュアとは何か」と改めて考えるようになったのもこの頃です。見た目で印象的なパーツは、ときとしてコンプレックスに感じている部分でもあります。それを誇張されることは、本人にとって受け入れ難いのです。

例えば、口の大きい方を描き手側が個性と思っても、本人がコンプレックスに思い誇張を受け入れられないときは、アングルを変えるなどして極端な誇張にならないようにします。そうした試行錯誤の末にたどり着いた答えは、"その人らしさ=真のlikeness"を見出すことでした。ただの被写体としてみるのではなく、内面から溢れ出る個性や感性を心で受け止めて描いていきます。カリカチュアは欠点を強調するものではなく、その人らしさを見出し表現していくもの。要望通りの似顔絵を描くと満足はしてもらえますが、それ以上の感動をカリカチュアで表現したいと思っています。目に見えない何かを発信することで人に感動を与えられる、それは私自身の喜びでもあるのです。

天職との出逢い

幼少の頃、典型的な虚弱体質で、週2回病院に通い体質改善の注射を打っていました。どんなに気が強くて威張っていても、体育と給食の時間は自分の弱さを突きつけられる。そんなときあるプロレスラーの本と出合い、強さへの憧れを抱くようになります。以来、強くなりたい一心で体を鍛え、高校でレスリングを始め、卒業と同時にプロレスラーを目指して渡米しました。逆輸入レスラーとしてデビューを狙っていましたが、アメリカ留学は自分探しの意味合いが強かったように思います。新しい世界に身を置き、強い自分に生まれ変わろうと必死でした。

カリカチュアを初めて知ったのは、子供の頃家族でラスベガスに旅行したときです。それまで見たことのない"おもしろい似顔絵"は、とても魅力的で心に強く残りました。もともと絵を描くことが好きだったこともあり、プロレスの武者修行中も我流で描き続け、知らない土地で練習をする辛い毎日の中で、カリカチュアが心の拠りどころになっていたのです。語学学校の後ジムに行くまでの時間、カフェで1杯のコーヒーを飲みながらスケッチすることが唯一心の休まる時間でした。

異業種からの転職

才能に満ちた素晴らしいアーティストがごまんといる世界で、私のように格闘技ばかりやってきた人間が、今後アーティストとしてどうやって生きていくか。とにかく描き続けるしかありません。どこへ行くにも紙とペンを持ってひたすら描き続けました。そして、カリカチュアリストの元で手伝いを始めてから2か月目、急遽欠員補充のためイベントに駆り出されます。デビューできるのが嬉しくて仕方なく、失礼のないよう一生懸命描きました。しかし、私たちはアーティストであると同時にエンターテイナーです。ライブスケッチは一生懸命ではなく、楽しく描かなくてはならない。会場には5人ほどアーティストが来ていましたが、楽しく描いているアーティストの周りにゲストが集中し、とても悔しい思いをしました。デビューできた嬉しさと、思うようにいかない悔しさが入り混じった複雑な思いで会場をあとにしようとしたとき、私が描いたゲストたちがスタンディングオベーションで見送ってくれたのです。あの時の感動は生涯忘れることはできません。この道で生きていこう。もっとスキルを身につけて、たくさんの人に喜ばれるアーティストを目指そうと決意した瞬間でした。

私の哲学

カリカチュアの主人公はあくまでも"人"。私は生涯人と向き合い、人を描いていきます。それは、魅力的な人を1人でも多くカリカチュアで作品にし、多くの人に見て楽しんで何かを感じてもらいたいからです。そして、モデルが歩んできた人生や時間を、価値あるものとしてカタチにしていくこと。それが私のカリカチュアアーティストとしての使命だと思っています。

私の夢は、カリカチュアを通して1人でも多くの人々と出会い、1つでも多くの笑い、感動、サプライズを提供し、明るい社会と人々の幸福に貢献することです。カリカチュアをユニークなアートにとどめることなく、人の心を豊かにする文化にまで昇華させていきたいと考えています。そのために、今年から本格的に教育事業を始めました。生涯の趣味として、ビジネスに活きるコミュニケーションツールとして、また本格的にプロを目指すなど、様々な目的に応じたクラスを開設しています。いつの日か、学校の美術の時間に"カリカチュア"という授業ができたら嬉しいです。将来的には、カリカチュアミュージアムを創設する構想も練っています。



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一瞬一瞬を大切にして毎日を過ごされているKage氏は同世代としてとても刺激を受けました。カリカチュアアートの世界大会で世界一になったとしても、常に前向きにチャレンジする姿勢に強く共感しました。感動とエンターテイメント性のあるカリカチュアアートを是非多くの方に体験して頂きたいと思いました。Kage氏をはじめ、カリカチュアジャパンのアーティストの皆様の益々のご発展をお祈りします。本日はお忙しい中本当にどうもありがとうございました。

「私の哲学」編集長 杉山 大輔

2009年5月 カリカチュアジャパン株式会社にて  編集:楠田尚美  撮影:鮎澤大輝