日本にパーソナルスタイリストという職業を確立、普及させた政近準子氏。ファッションに対する想いから、イタリア生活で学んだこと、昨今の女性と男性の関係性に至るまで熱く語っていただきました。

Profile

第17回 政近 準子(まさちか じゅんこ)

パーソナルスタイリスト創始者
有限会社ファッションレスキュー 代表取締役社長
パーソナルスタイリストジャパン 学院長
社団法人プロパーソナルスタイリスト協会 理事長
日本を代表するアパレル企業、株式会社東京スタイルでファッションデザイナーとして活躍後、イタリア・フィレンツェでの生活を経て、「その人を輝かせる服を提案できるパーソナルスタイリング」の必要性を提唱。2001年、日本で初めてとなる個人向けスタイリングの会社、ファッションレスキューを設立。“パーソナルスタイリスト”という職業を普及させた。政治家や経営者をはじめ、これまでに延べ1万人以上をスタイリング。百貨店にパーソナルスタイリングスキルの導入も行っている。著書に『「似合う」の法則』『働く女性のスタイルアップ』他。近著『一流の男の勝てる服 二流の男の負ける服』は、ファッションジャンルでは異例の売り上げを誇るベストセラーとなっている。

※肩書などは、インタビュー実施当時(2013年3月)のものです。

デザインは創造と破壊。自分にはそれができないことに気づく

 それまでスタイリストというと、タレントやモデル、有名人など芸能事務所に所属している人に洋服を提供する、いわゆるファッションスタイリストしかいませんでした。着物については、呉服のプロなどに聞けば基礎はわかります。けれど洋服に関しては、基本的なことから、シチュエーションに応じた装いまでを教える人がいないのは問題だという意識をずっと持っていました。元々はデザイナーだったのですが、仕事をしてみて自分は川久保玲にはなれない。山本耀司に憧れてファッション業界に入ったけれど、普通の人だと思い知らされました。コンテストなどで賞をいただいたこともありますが、どれも誰かの真似でしかなかった。自分で言うのも何ですが、デッサン力はあるのできれいなデザイン画は描けてしまいます。でもそれは結局、ジャン=ポール・ゴルチェと川久保玲のミックスみたいなものでしかない。これは才能がないなと。だって、それまでにない新しいデザインが全然思い浮かばなかったんです(笑)。

実際には、子供を産んだときに諦める覚悟を決めました。出産は究極のリアリティで、美しいとか感性などと言っていられない世界です。その体験をしたときに、神がかったものを作り上げていく繊細な感性よりも、自分はリアルを追求したいんだと思い至りました。デザイナーってアーティストですよね。パーソナルスタイリストに創造力は必要ありません。現実にとても近いところで、洋服のラインナップやコーディネートを考える、服装を一般の方にも指南できるプロになろうと決めました。こうした決心ができたのは、20代のときに経験したイタリアでの生活が影響しています。イタリアに行っていなかったら、たぶん企業の中で組織を動かすようなポジションにまで昇りつめようとしたと思います。役職やバックといった価値観のないところで勝負できる世界がファッションなんだとイタリアで学びました。日本しか知らなかったら、今のようなことはできていなかったでしょう。

人生を純粋に謳歌するイタリアで変われた自分自身

 イタリアに渡った時、日本ではバブル経済が崩壊するかしないかの頃でした。全身アルマーニを着て粋がっていた25歳の私は、人々が人生を純粋に豊かに謳歌している空気感に衝撃を受けました。当時は今よりも治安が悪く、度々財布を盗まれていました。もちろん警察に行くのですが、「今日ワイン奢ってあげるから、一緒に飲もう」などと言って、きちんと取り調べてくれません(笑)。あるとき日本から遊びに来た友人が、ミラノの駅でスーツケースの盗難にあってしまいました。落ち込んで涙する友人をフィレンツェのトラットリアで慰めていたら、各テーブルからお肉やワインが届きます。「今聞いていたら盗難にあったんだって?それは悪かったね。代わりに自分たちが謝るから決してイタリアを嫌いにならないで」。イタリアではそういうとき、悲しみは分かち合いながらも、何とかなるさと、どんなときでもアモーレ、マンジャーレ!カンターレ!なんです(笑)。例えば無職の人も悲惨な感じがなく、この国で生まれたことになぜか満足している。「仕事が無いと好きなだけ散歩ができるし、いくらでも好きなことをしていられて悪くないよ」と。気がつけば家族自慢の話に美味しい料理、歌声が響いているといった感じです。日本人が職を失ってしまったら、「明日からどうしよう」となってしまう。考えることのスケールが違いますよね。イタリア生活で、人生の価値観が大きく変わりました。こうあるべき、に縛られず、自分が進むべく道を愉しんで、外野に惑わされることなく進めばいいんだと思うようになりました。

当時の日本ではファッションデザイナーが常に不足していたので、イタリア帰りの経験者となると引く手あまたです。創作能力はなくても、商業的に多くの人に売れ、支持される技術を持った商業デザイナーとしての実績があったので、すぐにアパレルデザイナーの仕事に就けてしまう状況でした。でもイタリア人の人生観に触れ、また、イタリアで知ったスタイリングを指南できるプロフェッショナルの存在に触れ、その道を日本で切り開いていくことに決めたのです。

単なる変身ではなく、実際の生活ステージで映える装いの提案

 パーソナルスタイリストは、個人向けスタイリングサービスのプロフェッショナルです。お客様に真に寄り添うカウンセラーでありセラピストでもあります。パーソナルスタイリングの技術は、私が25年に及ぶ経験で得たスタイリングメソッドと、ニューヨークファッション工科大学のイメージコンサルティングテクノロジーを基盤にしています。決してファッションを押し付けるのではなく、あいまいな提案をするのでもなく、その方本来の輝きを見つけることがこの仕事の本質です。

パーソナルスタイリストを利用したいと思われているお客様は多岐に渡り、年齢は17歳から80歳の方まで。職業も経営者や弁護士、サラリーマンに主婦の方など様々です。客層の幅広さに加え、利用したい理由が一人ひとり違いますから、個々の希望にファッションで答えを出していく作業には想像を超える苦労があります。私が行うパーソナルスタイリングは単なるビフォア・アフターの作業ではなく、明日も明後日も、1か月後も1年後も、そのスタイルの"継続"が可能となるものです。それは、お客様のライフスタイルや価値観までも見極め、内面の魅力を引き出すスタイリングだから。ですから、お客様が子育て中のお母さんなら、保育園の現状とその周辺環境を調べるなど、その方のライフスタイルを知るために、暮らしにまつわる現場を見に行きます。デザイナーに必要な創造力とは違う、お客様のライフスタイルの場面をできるだけ詳細に思い浮かべる"想像力"は必要なのです。

今後はパーソナルスタイリングだけではなく、商業的デザイナースキルを生かした、それぞれの体形をより美しく見せてくれるリアルアイテムの制作なども始める予定です。実際そういったオファーが後を絶ちません。今、人生はやはり点と点が"線"で結ばれていくのだと実感しているところです。

身体も気力も弱くなってしまった男たちへエールを

私が思春期の頃は、背が高くて、がっちりした男性にお姫様抱っこしてもらうことを夢見るのが普通だったのに、華奢で細いだけなら時代ともいえますが、今は中身までヤワな男性が多いですよね。これは一種の平和ボケのようにも思います。戦争がなくて戦う、守るといった意識が必要ないからでしょう。もちろん戦争はあってはならないことです。戦争で闘わずとも、使命を持って自分と戦ったり、汗を流し、体力と気力、心を持って多くの人を救えたりすることもあるでしょう。特に30代男性の意識が少し女性寄りのように感じます。ここで勝とうとか、負けたくないとか、そういうものがないから身体も弱くなる。昔は知能で勝てないんだったら、身体鍛えて喧嘩で勝てと教えられたものです。今戦うのはゲームの中だけ。そんなヤワな男に服だけ良くしたって仕方がない。女性が元気で強くなったと言われているけれど、男の人がしゃんとしていれば、女は必要以上に強くはならない。女性ももっと男性の底力を信じてあげるべきでしょう。男性が弱いから、本能的に母性が強くなってしまいますが、女性として男性を育てるしなやかさを持ってほしいとも思いますね。

勝負のとき、背中を押してくれるのが洋服

 装いはギフト。今日会う方への思いやり。そして、"Power of Fashion"です。自分に相応しい、力が出る洋服を着ると背筋が伸びて、自信に満ちて見えます。それは、本当の自分らしさが引き出されたことの表れ。洋服は、「自分はこれでいいんだ!」「いけるぞ!」といったことを表現できる最高のツールです。私は常に服の力を信じて、"Power of Fashion"の信念のもとにコーディネート提案しています。ここで頑張ればステップアップできるというような時、日本人の感覚だと「こんなに無理しなくても」となってしまうことが多い。身の丈で装いを考えることは基礎ではありますが、特にビジネスマンだったら、「いざ!」みたいな時があるでしょう。そういう時、私は信念を持って「理想に近づくために多少の無理はしましょう」と言います。それは"Power of Fashion"を体感してみなさいという想いがあるから。装う力を感じることも一流を目指すには必要です。

男性にはリーダーシップをとってほしい。社会で戦い、家庭を守る気負いを持ってもらいたいというのが本音です。女性は仕事や自分の生き甲斐だけではなく、できることなら子供を持ち、これからの世界を支える次の世代へ命をつなげてほしいと思います。もちろんそうしたくてもできないご事情がいろいろあることも理解していますから、誤解しないでいただきたいのですが。人間本来が持つ自然なたくましさや優しさが欠落している現代。ファッションだけでは補えない"生き方、根っこの強化"が男女ともに必要だと私は伝えたいのです。

2015年5月 追記

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そんなわたくし政近の哲学、プロパーソナルスタイリストのリアルな日常を追いかけたドキュメンタリー番組が、この度NHKより放映されることになりました。

NHK「助けて!きわめびと」
※5/9(土)、5/16(土)の2週連続特番として出演

パーソナルスタイリングとは、単なるビフォア・アフターの作業ではなく、明日も明後日も1か月後も1年後も、そのスタイルの"継続"が可能となるからこそ、その人の人生がより豊かに輝き、輝き続けていくもの。
この職業を創始してから15年。この度「人生で一度でいいからきれいと言われたい」とお悩みを寄せた、山形県に住むとある主婦の方と出会いました。過去を乗り越え、明るい未来へ歩んでいく中で、一体服装の力がどんな奇跡を起こすのか。
きっと、パーソナルスタイリングの本質、政近準子の伝える『私の哲学』を感じていただけることを信じています。

※「助けて!きわめびと」は、世の中にあふれる「お悩み」に対して、ひとつの道をきわめた“きわめびと”を派遣し、解決に向けた「視点」や「発想」の転換のヒントを伝授するドキュメントバラエティ番組です。

『一流の男の勝てる服 二流の男の負ける服』を拝読して、ファッションは生かすも殺すも本人次第だと再確認。とても勉強になったこの本の著者、政近準子さんに是非お会いしたいとラブレターを書き、今回のインタビューが実現しました。

「Power of Fashion」が彼女の哲学であるように、政近さんからはものすごいパワーが出ています。"パーソナルスタイリスト"という仕事を確立し、日本で初めてスタートさせて以来、常にチャレンジしてきた姿勢が、今の魅力に繋がっていると思います。

インタビューを通して、ファッションをはじめ、すべてその人自身が、どのような人間になりたいかという強い信念を持つことが、今の時代に必要不可欠だと改めて感じました。人生は切り開くもの。そして、ファッションはそれに対してパワーを与えるものだと僕は考えています。 ファッションレスキューの益々のご発展と、より多くの人々に自信を持たせるための活動を応援しています。

「私の哲学」編集長 杉山 大輔

2013年3月 有限会社ファッションレスキューにて  編集:楠田尚美  撮影:鮎澤大輝