ベンチャーキャピタリストとしてタリーズコーヒージャパンなど、国内有数のベンチャー企業を発掘した実績を持つ須賀等氏。会社設立や会社経営において必要なマインドについてお聞きしました。

Profile

第1回 須賀 等(すが ひとし)

「丸の内起業塾」塾長。 タリーズコーヒージャパン(株)特別顧問、国際教養大学グローバルビジネス 課程客員教授、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール) 及び京都大学産官学連携本部、各非常勤講師。

※肩書などは、インタビュー実施当時(2007年5月)のものです。

丸の内起業塾

私が塾長を務めている"丸の内起業塾"には、場所柄付近の大企業や官庁の現職、30代半ばの方が圧倒的に多いです。地域性に加えて、夜7時から10回コースで15万円という時間、価格帯が重なり非常にレベルの高い人達が来ています。

企業派遣の方が約3割で、ほとんどの方は自腹です。中には会社や役所に内緒で来ている方もいます。他には、経営の手法が学びたいという事務所をスタートさせた医者、公認会計士、弁護士もいます。

開塾当初は「今から会社を辞めて起業しますか?」と質問すると、手を挙げるのは 20人くらいの参加者の中で自営を含めて3人しかいませんでした。でも、最近は半分くらいになりました。大企業のあり方も随分変わってきていますし、今現在、大企業で良い仕事をしていたとしても、将来のことも考え独立したいと真剣に考える人が増えてきているのだと思います。

人生を賭けているから相談にみえるので、私も真剣に応えます。様々な業界の人たちの知見や意見を聞いたり、リスクの限界や程度を見てもらった上で、「この人ならやっていけるな」と思えたら背中を押します。しかし、中にはいろいろな意味で会社を辞めない方がいいと思う方もいます。皆さんには、会社を辞めてどんどん新しく会社を作ってもらいたいのですが、それぞれの生活がかかっていますし、いい加減なことはできないと考えています。

経営者にとって必要なこと

私は常々「企業はお金さえ儲かれば良いという発想でやっては絶対にだめだ」と言っています。企業は社会的な存在です。社会のために役立っているのかどうかが大切で、たくさんのお客様の支持がサービスや商品の購入に結びつき、売上が増えて商売も繁盛します。

ところが、世の中のためにならないこと、人をだましてお金を取るような仕組みでは、目先は良くても絶対につぶれます。やはり、志はあるかということ。自分の犠牲を払ってでもこのビジネスを進めたいと思ってやっていると、儲けは自然と後からついてきます。お金が儲かるということは、基本的に社会からの投票だと思います。いくら売上げたか、どのくらい支持が集まったか。良い商品やサービスを提供していれば、特にそれが今までにないベンチャーであれば社会から大きな支持を受けて、最終的には売上と利益につながるのです。

起業に参加する

"丸の内起業塾"には、あらゆる業種の方が参加されており、実に様々なビジネスプランが出てきます。それに対して点数をつけて講評し、本当に素晴らしいものにはお金を出し、実行してみないかということになります。そこには、人と人との結びつき、組織と社会との関わりがいわゆる「会計」「財務諸表」になり、数字となってはっきり出てきます。数字的な言語で表明されたら、それを良くするためにどうするか。あらゆる角度からアドバイスするだけでなく、その会社の株主になったり、役員になることもあります。

コンサルタントや支援、アドバイスをするだけというのは好きではありません。本当に良いと思ったら、自分でもリスクを取って関わりを持たなければならないと思っています。それもリーダーの責任ですし、傍観者になるなら初めから関わらないというのが私のスタンスです。

相当の肩書きを持ったレベルの高い参加者が、お金を払ってまで来ているわけですから、「ここは素晴らしかった」というものをお出しできないのであればやる必要はないと思います。起業の場合、経営資源、お金も人もモノも何もなく、その中で情熱とアイデアだけでのし上がっていく大変さがあり、その現場的な感覚、現実味のある話を伝えています。加えて、「ビジネスをやるのにこれだけは知っていないと大変困る」いう内容で、それぞれ専門の先生に講師をお願いしています。法務・財務・経理・ビジネスプランの書き方についてもきちんと押さえておいて欲しいからです。

私がこの塾を始めた大きな理由は、精神論だけではなく、経営の技術的な部分までも網羅した、起業に関するすべてを統合したものが存在していない、そこに不満があったからなんです。実際、国内でMBAを取得した人も"丸の内起業塾"に参加しているように、アカデミズムと実践のバランスが大切です。

コーポレートミッションということ

自分の会社を知らなければ他社と比較することはできず、差別化を計ることもできません。そこで、会社のアイデンティティー、コーポレートミッションが重要となります。コーポレートミッションは、会社が社会にどう関わっていくのか、社会のどの分野にどのような形で貢献することが目的なのかを明確にしたものです。これがしっかりしている会社は伸びます。逆にこれがない会社はたいてい続きません。

アメリカではコーポレートミッションをどの企業も大事にしていて、それをきちんと守っている会社は世の中が多角化しても安定しています。ミッションがぶれると、不思議と会社はおかしくなっていく。特にベンチャーでは、他の人がやらない特定の部分で他との差別化を行うわけですから、コアとなるミッションは、社員やお客様にも浸透しなければ儲かりません。

何が人を動かすか

私はMVCのベンチャーキャピタルの社長を4年間務めました。できたばかりの会社に投資するのは、ビジネスモデルがいいとか、ニッチがあるということもありますが、基本的にはその人の一生懸命さ、人並み外れた情熱に惹かれるからです。ただ面白いものなら世の中にたくさんある。でも、大企業を辞めてまで必死でやっていると世の中に出してあげたくなる。そうして応援団となる人達がつくのです。

うちの塾生には、ビジネスプランは完璧でないかもしれないけれど、とにかくこれだけは「命をかける」という姿勢が見えます。そして、難しいがやれないこともないと判断できれば、「お金を出そう」、「役員になって会社の責任を背負う」、「他の投資家も紹介しよう」という気持ちになります。

応援するというのは、全員そのベンチャーに関わることによってリスクを共有します。ですから、リスクを共有するような状況にまで引きずりこむだけの、とんでもない情熱とエネルギーが、オーラにように漂ってくることがとても大事です。世の中よくできたもので、困っていると誰かしら助ける。黙ってお金を貸して儲かるまで返さなくてもいいと言う人が出てくる。理由は皆「あいつが気に入ったから」。これまで多くの会社を見てきましたが、成功している会社には必ずそういうエピソードがあります。

ニューヨークで剣道を始めたことによって、海外にいながらにして日本の文化や礼儀作法に触れることができました。「剣とは心なり、心正しければその剣正し、心正しからざればその剣もまた正しからず。剣を学ぼうとするものはすべからくその心を学べ。」この考え方を常に意識して行動しています。須賀氏との熱いインタビューを通して、ビジネスも心、起業家・経営者のマインドが会社経営において一番大切だということを再確認しました。

「私の哲学」編集長 杉山 大輔

2007年5月 新丸ビル東京21cクラブにて  編集:楠田尚美  撮影:鮎澤大輝