第76回「私の哲学」山岸 伸 氏

今から10年前、カメラマンとして活躍していたある日、ガンで入院を余儀なくされた山岸伸氏。その後の人生をどう送るか考えた時に始めたのが、『瞬間の顔』の撮影でした。そこに込められた、10年間の想いを伺いました。

Profile

第76回 山岸 伸(やまぎし しん)

写真家
1950年千葉県生まれ。日本写真家協会会員。俳優・アイドル・スポーツ選手・政治家などのポートレート撮影が中心。グラビア、雑誌、写真集、広告等幅広く活躍。写真集出版は400冊を超える。2006年4月号まで約15年にわたり学研のカメラ雑誌『CAPA』の表紙撮影を担当。とかち観光大使に任命されている。写真展『瞬間の顔』は、2007年からスタートし、2018年3月で10回目を迎える。2009年3月23日に慢性骨髄性白血病と診断されたが、毎日、撮影していれば元気でいれると、現在も笑顔で治療中。

入院をきっかけに始めた

男性が見せるちょっとした表情をまさに瞬間で切り取る。撮影時間も枚数もごくわずかで、相手に表情やポーズを作り込む隙を与えない。そうやって、男性の素顔の瞬間を撮り始めてから、ちょうど10年。

『瞬間の顔』の写真展も10回目を迎えました。契機となったのは10年前の入院です。15日間程度でしたが、初めてのことだったし、絶好調で仕事をしている最中だったので、大変でしたね。これからどう生きていこう、と考えるきっかけになりました。

今後の生き方を考えた結果、今のままではマズイと思い、1カ月70万円もするマンションを引き払って、こじんまりとしたワンルームに移ることにしました。そこで写真の整理を始めたんです。死んだ時に大量の写真が残っていても邪魔なだけなので、不要なものはすべて燃やしました。でもその中で、どうしても残しておきたい写真があった。それが、俳優の西田敏行さんや柔道家の吉田秀彦さんといった男性たちの写真です。普段の仕事では女性を撮影することが多いのですが、命のある限り続けられる仕事をしていることがどういうことなのかを考えているうちに、引き際についても考えるようになり、被写体を変えなきゃいけないように感じたのです。

そこで、長くお世話になった男性たちの“プライベート写真”を撮影したいと思うようになりました。撮り始めたら、あっという間に60人ほどになりました。そこで開催したのが、第1回『瞬間の顔』写真展です。男性を撮影すると、元気やエネルギーをもらえる気がして、次々に撮っていたらいつのまにか10年。生きがいと言ったらおかしいのですが、1000人までは撮りたいですね。

それは一瞬の積み重ね。出会いが出会いを呼ぶ

『瞬間の顔』を10年続けていたら、さまざまな人と出会うことができました。総理大臣もいれば、南極観測船「宗谷」の船長も、芸人さんもいる。点が線になるように、一人との出会いがまた別の出会いを生んでいます。たった一瞬の、一枚の写真で、それが決まるんです。だから撮影をするときは、いつも緊張します。相手がどんな人でもあっても、僕自身の態度が変わることはありません。有名無名に関わらず、どんな人でも緊張するんです。でも被写体となる相手は、たいてい笑っています。

もう『瞬間の顔』は700人ほどになりますが、ほぼ、みんな笑ってる。僕の動きを見ていると、どんなに気難しい人でも笑ってしまうようなんです。もちろん、中には、いつも笑ってしまうので、今日はあえて笑わないようにする、という人もいますが、たいてい笑顔ですね。

この間、ずっと付き合ってきたのが、ガン。自分では闘っているつもりはないのだけれど、10年間薬を飲み続けて、副作用とも付き合っていると、それなりに大変です。最近では、自分も主治医も病気に対して、ややマンネリになってきている気がして…。ここらで気合いを入れ直したいと思い、今年の2月、NHK主催のガンをテーマにした講演会に登壇しました。僕が病気や治療に対してどんなことを思っているのか、講演という形で周りに伝わるのは意味があることだと思っています。

一日一善のごとく、撮影し続けたい

僕の写真に言葉はいりません。一瞬で会って、一瞬で別れる。それが一枚の写真となって相手の手元に届いた時に、僕を思い出してくれればいいなと思っています。僕って、気が短いんです。例えば、今、つぼみの状態の花が、一時間後、太陽が当たってくると開きますよと言われても待てない。つぼみのままでも、それはそれでいい。カメラで見たそのままを切り取ることに重きを置いています。どんな被写体に対しても、一対一で向き合っているから、そう思うのかもしれないですね。他の人が入れないところに入って、その瞬間を撮影するのが、僕のテーマ。ある意味で芸術的なのかもしれません。

僕は、これまでカメラマンとして生きてきました。お金をもらって写真の仕事をしています。僕が言うカメラマンの定義は、仕事として現場に行き、撮影する人です。一方、写真家は、仕事としてではなく撮影し、あとからその写真が売れる人のこと。例えば、今日晴れたからちょっと早起きして撮影に行こう、みたいなイメージです。写真の世界では、カメラマンよりも圧倒的に写真家が多い。カメラマンでいるには、依頼に応じていつでもパッと撮影に行けるよう、事務所も助手も持っていなければいけません。カメラマンの肩書きを写真家に変えるのは簡単なのですが、それには手放さなければならないものが多すぎると感じています。

自分の中で、カメラマンと写真家を両立させるという意味で始めたのが、『瞬間の顔』なのかもしれません。この撮影は無報酬です。対価は払われないし、払わない。でも、毎回毎回、本当に撮影して良かったという気持ちになります。10年という節目を迎え、感慨深いです。一日一善ではないですが、これからも写真を撮り続けたいです。今後は『瞬間の顔』を継続しつつ、最後に自分として何をやるか、考えたいですね。

『私の哲学』というインタビューシリーズを10年続けていることはすごいことです。私も『瞬間の顔』という、ただひたすらポートレートを撮らせて頂く企画・写真展を10年続けています。ひとことに10年と言っても10年続けるということは本当に大変なことです。私も何度かもうやめようかなと思ったことがあります。私は自分が一番エネルギーがあると思っていましたが、同じく10年続けていた若者がいたということにびっくりしています。久しぶりにエネルギーのある若い人と接することができました。杉山大輔くんの人懐っこさはどこからくるのでしょう。不思議な魅力を持った若者です。

写真家 山岸伸


10年打ち込んで作品作りをしている山岸伸さんとの対談は最高に楽しかったです!お互い10年組です(笑)。山岸伸さんの『瞬間の顔』1000人達成が楽しみです!ビジネススクールの時に学んだ「一万時間の法則」というのがあります。一万時間は10年です。どのような分野でも、だいたい一万時間程度継続してそれに取り組んだ人は、その分野のエキスパートになるという経験則です。10年続けてようやく見えてきたことが多々あります。僕の「人が大好きな性格」が幸いして10年スパンの思考と行動で『私の哲学』がようやく形になってきました。さらにインタビュー力、対談力を磨き続けます。来年は100回記念パーティーを開催します。うふふ。今から楽しみです。

「私の哲学」編集長 杉山 大輔

2018年2月 山岸伸写真事務所にて ライター:夏目みゆ  撮影:稲垣茜 

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