LGBTフレンドリーな社会の実現を目指し、様々な活動を展開されている柳沢正和氏。自身のカミングアウト経験や、今後の目標などについて伺いました。

Profile

第21回 柳沢 正和(やなぎさわ まさかず)

ドイツ証券株式会社グローバル・プライム・ファイナンス営業部長
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ理事

慶應義塾大学総合政策学部卒業。2011年、神奈川県葉山町にオープンした、LGBTもそうでない人も自分らしく過ごせる“カラフルカフェ”の初代店長を務める。翌年のTedxTokyoでこの時の経験スピーチし、自身がゲイであることをカミングアウト。世界中にインターネット中継されたそのスピーチは、世界最大級のカミングアウトと報道された。その後、職場でのLGBT認知と積極的な取り組みを企業に求める、“work with prideプロジェクト”に参画。また勤務先のドイツ証券では、今年11月LGBT当事者と当事者を支援する従業員(アライ)のネットワークであるdbPride Tokyoを立ち上げた。 また、自分らしく居られる場所を教育の世界にも広げていきたいとの思いから、長野県軽井沢町に設立予定の日本初全寮制インターナショナルスクール“インターナショナル・スクール・オブ・アジア軽井沢(ISAK)”の設立準備財団理事を務める。東洋経済オンラインにて『LGBT最前線』を連載中。

※肩書などは、インタビュー実施当時(2013年10月)のものです。

セクシャル・マイノリティーとは

LGBTは、Lesbian(レズビアン)、Gay(ゲイ)、Bisexual(バイセクシャル)、Transgender(トランスジェンダー)の頭文字からできていますが、セクシャル・マイノリティーにはいろいろ種類があります。レズビアン、ゲイ、バイセクシャルは、自分が好きになる相手が同性である人のこと。トランスジェンダーは、自分の心と体の不一致を感じている人のことで、同性が好きな人もいれば、異性が好きな人もいます。性って白黒はっきりしないグラデーションの部分があって、自分がどちらの性かわからない人、相手を好きになる気持ちがわからない人など、LGBTの枠に入らない人もたくさんいらっしゃいます。マイノリティーの中でも多くを占めるからLGBTと言われていますが、基本的には、性的マイノリティー全体のことをLGBTと言っています。

僕は、自分は何者なんだろうと自分自身に問い続け、体験的に学んでいきました。誰も教えてくれないので、本屋で雑誌を立ち読みして、「こういう世界があったのか。自分も、もしかしたらこうかもしれない」と思うことからスタートしました。ここ数年はサポートが充実してきていて、それぞれのグループ毎にサポートセンターや、自殺防止のためのホットラインなどがあります。日本政府もこうした問題自体があることは認めていて、シンガポールやイスラム圏の国々などと違い、LGBTであることは違法ではありません。LGBTであることを違法とする国は結構あるんですよ。例えば、アメリカだとキリスト教の教えに反するので認めないという考え方があります。日本政府は比較的フレンドリーで、ホットラインやNPOに補助金を出すなど取り組みは進んでいます。

両親に対するカミングアウト

以前勤めていたのも外資系の金融機関だったのですが、「バーベキューをするから彼女を連れてこい」と誘われることが度々ありました。いつもはボーイフレンドのことを"彼女"と自分の中で置き換えていたのに、ある時、間違って"彼"と言ってしまったんです。その場がシーンとなりましたね。でも、上司が「今度連れてきなさい」と言うので連れて行きました。女性の上司でしたが、「あなたが男性とつき合おうと、女性とつき合おうと構いません」とあっさりした方だったので気が楽でした。それまでは、他の人のことを指して、「あの人ゲイらしいよ」と言っているのを聞くと、自分もそう言われているのかと思ってすごく傷つきました。カミングアウトした後は、周りは気を使ってゲイをジョークにすることもなくなりました。

両親は、薄々そうじゃないかと感じていたと思います。社会人2年目の時に「実は」と告白しようとしたら「じ」くらいで自分が泣き出してしまって。そうしたら、「もしかして、あの事?」みたいな感じで話が始まり、あまりにも僕がわあわあと泣いているので、逆に向こうが心配してオロオロしていました。本当にすごく悩んでいたのがわかったみたいで、その時言われた言葉が、「その気持ちは全くわからないし、理解するにも時間がかかる。最後までわからないかもしれないけれど、あなたがどちらの性の人を好きだろうと、自分の息子であることには変わらない」でした。カミングアウトしたら絶縁状を突き付けられたといった話も聞いていたので、その言葉を聞いた瞬間に心の中の恐れが消え、不安の涙から嬉し涙に変わり、涙が止まりませんでした。

職場のLGBTフレンドリーを目指して

Tedx Tokyoのスピーチ構成を考えていたとき、"カラフルカフェ"の話だけではなく、自分のことも話そうと決めました。特にLGBTに向けて、「自分はカミングアウトしたけれど、問題なくすごく楽しい生活を送っている」ことをわかってもらうためにも、TEDの場所でカミングアウトすることは重要だったんです。

出た後の反響はもの凄く、LGBTフレンドリーのシェアハウスができてしまったほどです。打ち上げで株式会社シェア・デザインの方に出会い、所属するNPOグッド・エイジング・エールズ(以下、グッド)が、「LGBTもそうでない人も入居できる、カミングアウトしても自分らしく居られる空間を作る」というビジョンを持っていることを話したら、「是非コラボレーションしましょう」ということになりました。そこからは、グッドの仲間とシェア・デザインのスタッフのみなさんと協同で、たった8か月という短い期間で"カラフルハウス"をオープンしました。

シェアハウスは住む場所。カフェはくつろぐ場所。でも1日のうち、家で寝る時間やカフェで過ごす時間は短くて、一番多くの時間を占めるのは職場です。やっぱり仕事が充実している、自分らしく居て仕事ができることはとても大切です。ですから、職場環境を変えていくことが今の自分のテーマ。

今月、11月22日(金)、ソニー株式会社に場所提供のご協力いただき、LGBTに関するダイバーシティ・マネジメントについて議論する人事部向けのイベントを開催します。以前電通総研が行った調査で、人口の約5%がセクシャル・マイノリティーであるという結果が出ました。どの会社にもLGBTはいるんです。彼らが自分を偽らずに居られたら、もっと能力を発揮して活躍することができます。是非、そのことを学んでほしい。日本企業であるソニーがこの問題に取り組み始めることは、他企業に与える影響を考えると、とても大きな意味のあることだと思います。 LGBTは一つの生き方であって、その生き方を尊重する企業がたくさん現れてほしい。

僕の目標は、まず、いろいろな企業に働きかけていくことです。もう一つは、グッドの仲間とLGBTもそうでない人も自分らしく居られるオフィスを作ること。統計が出ているわけではないのでイメージですが、LGBTは弁護士、税理士、公認会計士といった職業の方が多いんです。大きい会社組織の中で一サラリーマンとしては働きづらく、独立して開業される方が多いのでしょう。グッドではそういう人たちが集まれるシェアオフィスを作ろうと計画しています。

声を出して発信し続けると仲間が集まる

カフェをやりたいと言ったら、ここの場所を使いなよという人が現れて、カラフルカフェができました。カラフルカフェのことを話したことで、住む場所を作りましょうと言ってくれる人が現れて、シェアハウスがオープンました。職場環境の改善についても、ソニーが一緒にやりましょうと言ってくれました。やっぱり、発信することは大事だと感じています。こういうことを実現したいと言うと、一緒にやりましょうと共感してくれる人と出会えます。Facebookの便利な点は、自分の友達だけに限定して発信できること。同じように、カラフルハウスの中だけでカミングアウトする。その中だけで発信することからスタートしてもいいと思うんです。

今までカミングアウトというと、一気に周囲の人全員に、「自分はゲイです」と言わなくてはいけないようなプレッシャーがありました。そうではなくて、少しずつでいいから、自分が居心地の良い範囲を広げていくと、それがいつか、ありのままの自分で居られる世界になっていく。そのための場所やシステムを作っていきたいと思っています。

個人的には将来結婚して、子どももほしいですね。今36歳ですが、これくらいの歳になると、海外のゲイやレズビアンの友達が子どもを持ち始めます。日本ではまだ、同性同士のカップルが養子をもらうことはできません。アメリカの同性カップルは、7人に1人くらいの割合で子どもを持っていて、同姓カップルが子どもを持つことは当たり前の時代になってきていると感じています。近年、急速に世の中が変わってきているから、もしかしたら日本の状況も変わるかもしれない。今後数年の変化を待ってみます。子どもを持つには、ある程度年齢的なリミットがあるので、どうしても変わらなかったら海外に行くこともチョイスとして考えています。

work with pride 2013
『LGBTと日本の職場、課題と今後』

開催日時
2013年11月22日(金曜日) 15:30〜17:30
主催
work with pride(日本アイ・ビー・エム株式会社、国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ、特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ、特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ)
会場
ソニー株式会社 ソニーシティ大崎 カンファレンスホールA
問い合わせ先
特定非営利活動法人グッド・エイジング・エールズ
EB43746@jp.ibm.com (日本IBM ダイバーシティー)
 
東洋経済オンライン『LGBT最前線』

柳沢正和さんにインタビューを依頼したのは、史上初の黒人メジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソンの実話を描いた映画、『42〜世界を変えた男〜』を観て感動したからです。ヒューマン・ライツ・ウォッチを通して知り合った柳沢さんは、大学の先輩であり、友人でもあります。日本ではあまりLGBTは知られていませんが、知ることや理解することは大切です。多くの方々にLGBTの現状や柳沢さんの人柄を知ってもらうためにご登場いただきました。

「自分を知り、自分らしく生きること」は、人生において最も重要なことだと考えています。TEDx Tokyoのプレゼンテーションは400人の聴衆を目の前にし、また、その様子はネット中継を通じて全世界で数千人が見守っている中カミングアウトしたことで、彼は大きく殻を破り、突き抜けたと感じました。僕はニューヨークで育ち、様々な考え方や生き方の人と接していたからこそ、柳沢さんの自分らしく生きるための発言に深く感動しました。

自分らしく生きることは本当に幸せなことです。Work with pride, live with pride.に共感し、LGBTの今後の活動を応援して参ります。

「私の哲学」編集長 杉山 大輔

2013年9月 カラフルハウスにて  編集:楠田尚美  撮影:鮎澤大輝