青山フラワーマーケットを全国で80店舗以上展開するまでに成長させ、グリーンやトライアスロンの専門店など、新たな事業にも果敢に挑戦。常に進化し続ける経営者・井上英明さんに、会社の今後の展開と自身が最も大切にしていることについて伺いました。

Profile

第14回 井上 英明(いのうえ ひであき)

株式会社パーク・コーポレーション代表取締役。1963年佐賀県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、1987年に渡米。ニューヨークの大手会計事務所で会計士として働くが1年で退職。1988年株式会社パーク・コーポレーションを設立。1989年より生花事業に着手し、1993年に青山フラワーマーケット第1号店をオープン。現在、全国に80店舗以上を展開している。2003年にフラワースクール「hana-kichi」、2007年にグリーンの専門店「Jungle COLLECTION」、2011年にカフェ「TEA HOUSE」をオープン。2008年にはトライアスロンの普及を目指し、株式会社アスロニアを設立、取締役に就任した。趣味はトライアスロン。

※肩書などは、インタビュー実施当時(2012年8月)のものです。

ゼロから作り出さなければ意味がない

僕はパーク・コーポレーションのことを勝手に「ブランド・ブリーディング・カンパニー」と呼んでいます。ブランド・インキュベーションという表現をしている企業もありますが、それだとすでにある卵を発掘して育成することなので、あまり興味がありません。それよりは、掛け合わせることによって新しい品種の花が生み出されるように、自分でゼロからブランドを作り上げることに興味があります。では、何を掛け合わせるのかというと、日本人の強みである右脳、つまり感性です。ただ、感性のいい人というのはマネジメントが得意ではないことが多いので、日本人の素晴らしい感性を大事にしながらもしっかりと後ろから支えていくことが必要なのではないかと思っています。右脳と左脳の融合、クリエイティブとマネジメントのバランスが大切だということです。

例えば、アスロニア(2008年に立ち上げたトライアスロンの専門店。井上氏が取締役を務める)の場合は、アスリート・白戸太郎の感性と僕らのマネジメント力を掛け合わせたらどうなるだろうというところが出発点です。新しいことに挑戦し、その結果どうなるのか、常に実験している感覚です。もともと出来上がっているものには興味がないですし、やっぱりゼロから生み出さないと意味がないと考えています。

 小さい頃から、「やってみないとどうなるかわからない」ことが好きでした。幼稚園の頃、買ってもらった自転車で遠い親戚の家まで行ってみようと、朝早く起きて試してみたことがあります。育ったところが佐賀の田舎だったので相撲大会があったんですが、僕は体格が良かったので同級生に勝つのは当たり前でした。それが面白くなくて、もっと強いヤツはいないのかと年上のガキ大将に挑んだりもしました。

高祖父は薩長土肥の時代にアメリカに渡ったりしていたらしいので、遺伝かもしれませんね。とにかくチャレンジするのが好きなんです。負けず嫌いとは違います。負けず嫌いだったら勝つ勝負しかしないけれど、負けてもいい。最初から"できること"には興味がなくて、常に"できないこと"にチャレンジしていたいんです。

青山フラワーマーケットの10年後

花屋というのは、大きく分けて3つに分類されると思っています。1つは、いわゆるフローリスト。冠婚葬祭などの特別な日に使うような高価な花を扱うので、飲食店でいうフレンチやイタリアンのレストランみたいなものです。もう1つは、グロサリーの店先にあるような花屋。素材そのものとしての花なので単価は安いけれど、付加価値はついていない。いわば八百屋です。3つ目がその中間。花という素材に付加価値をつけて、家に帰ればそのままおいしくいただける総菜屋のような切り口の花屋です。フレンチレストランのように仰々しくはないけれど、手間をかけずに、家で気軽にいい気分が味わえる。これが僕らのやっている青山フラワーマーケットのコンセプトです。

1993年に青山フラワーマーケットの1号店をオープンさせたとき、ゆくゆくは200店舗くらいにしたいと考えていました。デパートで食材を買って、パンを買って、ワインを買って、その延長線上で花も買う。そういうライフスタイルを提案したかったので、RF1のロック・フィールドさんが出店しているような場所に青山フラワーマーケットがあってもいいはずだと思いつきました。それで、当時、ロック・フィールドさんの店舗数を調べたら200店舗くらいあったというわけです。

青山フラワーマーケットは現時点で全国に81店舗あります。今後の10年を考えると、もっと深く掘り下げていきたいし、もっと幅も広げていきたいと思っています。

深く掘り下げるというのは、お客様との関係性を深める、距離を縮めること。花は生ものなので、鮮度を考えると産地から直送するのが一番理想です。生産者のところにハウスを作って、僕らが全部品種選定をして、そこから直接店舗やお客様のところに届けるということをやっていこうと考えています。

幅を広げるという意味では、国内はもちろん、海外にも出店していきたいと思っています。これまでに東京から北海道、関西、九州と、1店舗から2店舗、10店舗から20店舗と増やしていったように、日本から海外へ横に展開していくイメージです。最初はパリ、次にニューヨーク、それからアジアに進出していく予定です。

海外進出で優れた人材を育てたい

 なぜ最初がパリかというと、感性や色彩感覚が抜群に優れている街だからです。パリに出店して利益を出すことよりも、そこで優れた人材を育てていきたいと思っています。

アジアに出店するのには機が熟していないというか、まだ早いと感じています。例えば、中国は人に見せるためのもの、バッグや車、時計にはお金を使い、自分が楽しむためのもの、生活を豊かにしてくれるものにはなかなかお金を使わない。僕らが扱っているのは結婚式などの豪華な装飾用の花とは違って、自分が楽しむため、心を豊かにするための花なので、そこにお金を使うようになるにはまだ文化レベルが追いついていないなという印象です。

まずはパリやニューヨークに日本から核となる人材を送り込んで、色彩感覚や美意識を高めてもらい、日本のお店のレベルを上げると同時に、アジアにも出せるような人材になってほしいと思っています。パリやニューヨークでインプットしたものを、アジアでアウトプットするイメージでしょうか。海外の店舗であると同時に研修所でもあるわけです。海外進出することによって、グローバルな人材が集まってくるので、結果的にリクルーティングの強化にもつながると考えています。

核となる人物としては、クリエイティブ感覚とマネジメント能力のバランスがとれた、非常にレベルの高い人間を求めています。今は各店舗にショップクリエイターとショップマネージャー、各ブランドにブランドクリエーターとブランドマネージャーの両方を置いていて、右脳と左脳、クリエイティブな部分とマネジメントの部分を分けているんです。ただ、海外に出店する場合にはそうはいかないので、1人の人間に両方の能力が求められます。パリにいつ出店するかは、人材が見つかり次第ということになりますね。やはりビジネスは人が大事。いい人材がいないとどうしようもないですから。

大切なのは"エレベーション"

会社を経営する上でも人生を生きる上でも、僕が一番大切にしているのは"エレベーション(=自己研鑽)"です。人は何のために生きているかというと、一生をかけて自分を磨き上げるため。だから、自分をどれだけ成長させるかが一番大事だという意味の中村天風さんの言葉です。とにかく1分1秒たりとも無駄にしないで、自分を磨き上げていくこと。それが自分にとって一番大事なことであり、一番興味があることです。スタッフにもいつも言っています。「会社を使って自分を磨け、仕事は自分を磨くための"砥石"、会社は学ぶための"道場"だ」と。そうやって考えていると自ずと時間を大切にするようになります。

 自分自身の今後については、80歳までトライアスロンができるような体を維持することを目標にしています。70歳くらいになったら、アイアンマンのハワイ大会に出場したいですね。トライアスロンは40歳のときに始めましたが、何事もなるべく早いうちから習慣づけていくことが大事だと実感しています。50歳よりは40歳、40歳よりは30歳。何かにチャレンジすることは自分を成長させるチャンスでもあるんです。知性があって、体もものすごく鍛えている大人は何歳になってもかっこいいと思います。

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青山フラワーマーケットの「お花を日常生活の一部に」というコンセプトがとても好きです。自分自身海外に長く住んでいたためか、日常的に花をプレゼントするのは自然なことだと思っています。

以前から、井上英明社長には"私の哲学"にご登場いただきたいと思っていました。たまたま知り合いの記念パーティでお会いした際に熱い思いを伝え、快く引き受けていただきました。インタビューの中で、「ゼロから始めなければ意味がない」とおっしゃっていましたが、過去のトレースではなく新しい価値の創造が、変化の激しいこれからの世の中で必要不可欠な経営姿勢だと私も感じています。

トライアスロンをされていることにも共感しており、今回の出会いで刺激され、インタビュー翌日井上さんが取締役を務める"アスロニア"でトライアスロン自転車を購入しました。経営者、アスリート、父親として積極的に新しいことにチャレンジする姿を見習っていきたいと思います。

「私の哲学」編集長 杉山 大輔

2012年8月 株式会社パーク・コーポレーションにて  編集:秋山真由美  撮影:鮎澤大輝