インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第32回 甲田 恵子 氏

テレビや新聞・雑誌などで注目を集めている、ワンコイン子育てシェアのAsMama。知り合い同士で助け合うこのサービスを立ち上げた甲田恵子氏に、シェアのもつビジネスの可能性などについてお話しいただきました。

Profile

32回 甲田 恵子(こうだ けいこ)

株式会社AsMama 代表取締役CEO
1975年大阪府生まれ。フロリダアトランティック大学留学を経て、関西外語大学英米語学科卒業。大学卒業後の1998年、省庁が運営する特殊法人環境事業団に入社。役員秘書と国際協力関連業務を兼務する。2000年、ニフティ株式会社入社。マーケティング・渉外・IRなどを担当。2007年、ベンチャーインキュベーション会社、ngi group株式会社に入社し、広報・IR室長を務める。2009年3月退社。同年11月に子育て支援・親支援コミュニティ、株式会社AsMamaを創設し、代表取締役CEOに就任。
著書に『ワンコインの子育てシェアが社会を変える!! 』(合同フォレスト刊)がある。
※肩書などは、インタビュー実施当時(2014年9月)のものです。

事業成長のポテンシャルを秘めた頼り合い

AsMamaの子育てシェアは、お母さんを手助けする正義感のサービスのように言われることが多いのですが、これは社会変革のポテンシャルをもった事業だと思っています。日常生活では、ちょっと助けてもらうだけで解決する問題がたくさんあります。その取っ掛かりとして選んだのが子育てシェアであって、もともとやりたかったことは、“地域共助”なんです。私は、学校から帰って自宅の鍵が閉まっていたら隣の家に行くという環境で育ちました。昔は当たり前だったこうした地域での助け合いが、今は怪我をさせたらどうしよう、何か事故が起きたらどうしようといった、過度な心配によって頼り合うことができなくなっています。国民性なのか、日本人は自分から「助けてほしい」と声を上げることをしません。でも、困っている人がいたら親切に声をかけるのも日本人の特性で、そこをつなぐ“頼り合い”にひと工夫することで社会は大きく変わります。

今は子育てシェアだけですが、これから10年、20年経つと子どもたちに支援の必要はなくなり、逆に今お世話になっている方々の介護とまではいかなくても、何か必要な手助けができるようになるでしょう。そうすると、子どもを預ける・預かるだけではなく、買い物の手伝いや電球の交換、病院の付き添いなど、いろいろな頼り合いが自然と起きてくると思います。介護の分野に進出するというより、必然的にそうした方向へと事業展開され、AsMamaのミッションでもある、“支援したい人と支援してほしい人が理想的に出会い、助け合える仕組みを創る”ことが、社会全体に広がっていくと考えています。私はおそらく自分に子どもがいなかったとしても、地域共助は社会課題の解決と事業成長の両立を可能にすると気づいたら、迷わずこの分野に飛び込み起業したと思います。

子育てシェアによって兄妹姉弟体験ができる

子育てシェアで一番気に入っているところは、兄妹姉弟体験ができるということです。兄妹姉弟がいると、おもちゃやお菓子を取り合って喧嘩することもあります。それに対処する能力や、分け合う・譲り合うといった協調性を兄妹姉弟間で身につけていきます。9歳になる一人娘は、子育てシェアで妹・弟がいる家に行くと、9歳ってこんなに母性があるんだと驚くくらい、赤ちゃんをあやしたり、ミルクをあげたりしています。お兄ちゃん・お姉ちゃんのいる家に行くと、真似をして決まった時間に勉強をしたり、ピアノの練習をしてみたり、いろいろな兄妹姉弟体験をしてきます。また、うちは夕食後に入浴なのですが、入浴後に夕食という家庭もあって、自分の家とはまったく違うルールもありだという多様性を学ぶことができます。私は単一性の中で子どもを育てたくなかったので、娘を台湾系の中華学校に通わせています。学校には台湾やアメリカ、カナダなど国籍の異なる友だちがたくさんいて、ビジネス社会で言われるダイバーシティーとは違う本当の意味での多様性を、当たり前のように受け入れながら成長しています。

娘にはこうした環境や、生きていく上で必要な力を与えてあげたいと思っています。「ママ、これどうしたらいい?」と聞かれるといつも「Think! あなたの問題だから自分で考えなさい」と言います。無責任なのではなく、自分の頭で考え、自発的・能動的に動くことが大事だと思うからです。誰かに言われて行動するのでは、自分のしたことに責任が持てません。特に子どもは結果が上手くいかないと、「ママが言った通りにやったのに!」となりますから。

女性だけの問題ではない

よく“AsPapa”を作ろうかという話になるのですが、お母さんが元気に活躍しようと思うと、それを応援してくれるお父さんがいなくては始まりません。AsMamaのスタッフで仕事を辞めなくてはならない方の一番の理由は、お父さんです。仕事をしているとどうしても、家事が少しおろそかになってしまったり、子どもの面倒を見てもらう機会が増えたり、夜中に仕事をすることもあります。そうしたことをお父さんが許容してくれないと、働くモチベーションは保てません。お父さんの器の中にお母さんを閉じ込めてしまうと、それだけで女性は活躍できなくなってしまうんです。

少子化の問題は深刻ですし、生産労働人口を増やすためにも、女性が今以上に働かなければならない状況は明らかです。子どもを産むと仕事か育児の選択を迫られ、これまで積み上げてきたキャリアを捨てざるを得ない今の社会を、このまま子どもたちに残すことはできません。今の子どもたちが大人になって、日本で暮らすことが嫌になってしまうような社会環境にもしたくありません。企業の中で意思決定を行う立場にいるのは、圧倒的に男性が多いでしょう。その男性が、子育てと自己実現の両方がしやすい社会をつくるために、何が課題で、どんな支援が必要なのか、もう少し本気モードで考えてもらえたらと思います。

世界共通のインフラに

将来的にはこの頼り合いを、電気・水道を超えるインフラにしたいと考えています。さらに日本だけのものではなく、世界中どこでも“困ったときにはこれ”という当たり前のツールにしたいんです。本当は5年後を目処に、「子育ては頼った方が子どもにとっても地域にとってもプラスになる。だから、子育てはもっともっと頼ろう。特に困っていなくても週に1回くらいは、多様性・社会性体験のために習い事と同じ感覚で利用しよう」。それくらいにまで社会の意識を変えたいと考えています。でも、それは文化レベルの話になり、5年で文化を変えるのは難しいと思うので、まず救急車になることが目標です。交通事故に遭って119番したら、間違いなく救急車が来ると誰もが思っていますよね。それと同じように、何か困ったことが起きたときに発信すると、知っている誰かが必ず来ることをみんなが信じて疑わないツール。お母さんが倒れたとき、自分のことをよく知っている誰かが飛んできてくれると子どもも信じられるツールにしたいです。

相手の顔が見えて安心でき、手軽なツールで気兼ねなく支援を頼めるこの仕組みは、どの国でも、どの世代にも通じるはず。私が他界した後でも次世代が思いを継いで、いつか世界共通のインフラとして世界中に広がることを願っています。

今回は取材というより、杉山さんと無限大の可能性と世の中を良くする!を語りまくる討論会のようでした(笑)。楽しかったです!

語りながら確信していたことは、「やっぱり自分たちで自分たちの社会は変えられる!」です。「Make it happen!(意志ある者なら実現できる!)」とエネルギッシュに語る杉山さんに奮起させられながら、頭に浮かぶのは全国にいるAsMamaのスタッフの姿でした。子どもを背負いながら自分たちの地域が少しでも子育てしやすい街になるように、子どもたちが楽しく過ごせる居場所づくりができるように、と日々声掛けをしながら共助を普及させるための気の遠くなるような活動でも、「もう他力本願な時代じゃない」と、1人ひとりが発信し、行動し始めた今こそ、まさに世の中が大きく変わる時なんだと思いました。

まだまだ未熟ではありますが、私はこの志事と仲間を未来のポテンシャルだとやっぱりやっぱり思いました。まだまだ、ここから・・・、「We can make it happen! (絶対に私たちはやります!)」です!

株式会社AsMama
代表取締役CEO 甲田 恵子

 

甲田恵子さんの著書『ワンコインの子育てシェアが社会を変える』を拝読すると、AsMamaのパワフルな活動が伝わってきます。「子育てシェア」の利用登録者数は2万人。いかに必要とされているサービスか、ということがよく分かります。実際にお会いした甲田さんは、太陽のようなエネルギーと笑顔の持ち主でした。彼女の「できない理由」よりも「できる方法」を常に考えて行動する姿勢に強く共感しました。また今回のインタビューで、アズママのこれまでの活動に加え、現在の日本の子育てにおける問題点などを詳しく知り大変勉強になりました。
小さい子供を抱えている家庭では、子供中心の生活になり、不安や大変なことはたくさんあります。そこにITと助け合いと地域という要素を掛け合わせたAsMamaが、これから生み出す新サービスを楽しみにしています。
まだAsMamaのサービスをご存知でない方は、是非こちらをご覧ください。http://asmama.jp/

『私の哲学』編集長 DK スギヤマ

2014年9月 株式会社AsMama にて  編集:楠田尚美  撮影:鮎澤大輝