システムデザイン・マネジメントの見地から、“幸せ”について研究をされている前野隆司氏。氏に、幸せになるためのメカニズムについて伺いました。

Profile

第47回 前野 隆司(まえの たかし)

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 研究科委員長・教授
1962年山口県生まれ。東京工業大学工学部機械工学科卒業。同理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。修士課程修了後、キヤノン株式会社生産技術研究所勤務、カリフォルニア大学バークレー校機械工学科訪問研究員、慶應義塾大学理工学部機械工学科教授などを経て、2011年より現職。1993年、博士(工学)学位取得(東京工業大学)。ヒューマンインタフェースのデザインからロボット、教育、地域社会、ビジネス、幸福な人生、平和な世界など、様々なシステムデザイン・マネジメント研究を行っている。
主な著書に『脳はなぜ「心」を作ったのか─「私」の謎を解く受動意識仮説』(筑摩書房刊)、『思考脳力のつくり方─仕事と人生を革新する四つの思考法』(角川oneテーマ21刊)、『幸せのメカニズム─実践・幸福学入門』(講談社現代新書刊)、『幸せの日本論 日本人という謎を解く』(角川新書刊)ほか多数。

※肩書などは、インタビュー実施当時(2016年8月)のものです。

幸せの好循環

幸せの基本条件は、「周囲との信頼関係があり、自己肯定感と他者肯定感が高いこと」。たったそれだけのことです。多くの人が、健康維持には野菜の摂取と適度な運動が必要だと知っていますよね。それによって健康度を高めているから病気になりにくい。同じように、幸せとは何なのかを理解し、周囲の人とつながり、夢を持って前向きに、自分らしく生きることに気をつけていれば、誰もが幸せになれるのです。だから、健康指導のように幸せの教育も行うべきだと思っています。

0歳からの一つひとつの判断、選択が人生の幸福度に影響します。行動を起こして何か結果が出ると、人はハッピーになります。ハッピーな人は、また次の行動を起こせるので好循環が生まれます。しかし、何か小さな障害が積み重なると、それは失敗体験になります。今日はサッカーをするか野球をするかといった、日常の様々な選択において最善の選択をしないと失敗してアンハッピーになり、次の行動を起こせなくなってしまいがちです。そして、行動できないから結果がまたアンハッピーになるという悪循環に陥ってしまう。悲しいことに、これが不幸のメカニズムです。多くの人は悩みなどアンハッピーなところに捕らわれていて、行動を起こすことができません。アンハッピーの要素を取り除けば活力が生まれ、行動を起こしてハッピーになり、GDPも地位財も上がります。僕は、そういう好循環な社会を作りたいと思っています。

夢を持ってポジティブに

好循環な社会を作るために、幸せ度を高める“ハッピーワークショップ”という活動を行っています。ハッピーワークショップでは、幸せになるための4つの因子(1.自己実現と成長 2.つながりと感謝 3.前向きと楽観 4.独立とマイペース)を高めます。たとえば“前向きと楽観”のワークでは、否定的な発言や考え方は見直しましょうということを行います。例えば、「君の仕事のここがだめだ」ではなく、「この部分を改善したらもっと良くなる」と言えば、ポジティブな言葉だけでアドバイスすることができます。

生まれたときは誰も悩みなどありません。ところが、様々な経験の結果、「自分はここがだめだ」といった自己否定、「あの人は嫌いだ」などという他者否定が積み重なります。こういった否定的な考え方の蓄積によってアンハッピーになってしまうのです。もし、多くのことが肯定される社会だったら、みんなハッピーなままでいられます。幸せのメカニズムを理解し、もっとポジティブになりましょう。夢ややりたいことを持ち、人と助け合い、ポジティブに自分らしく行動する。これを心がけるだけで幸せ度は向上するのです。「自分はだめだ」と思うのは、幸せという観点からはあまり良いことではありません。真っ直ぐに夢や目標を目指せばいい。迷いすぎるのは、エネルギーの無駄だと思います。

セカンドライフの設計を

日本のサラリーマンの方の多くは、会社の肩書がなくなったらただの人だということに気づけていません。「老後は好きな映画を観に行きます」などと言いますが、毎日通ったら3日で飽きてしまうでしょう。幸せになるためには何かクリエイティブなやりがいが必要なのに、そのことに気づかないまま定年を迎えてしまう人がほとんどなのです。僕が今後やりたいことの一つは、“退職時研修”です。すでに行っている企業もありますが、4つの因子の再教育を行うべきだと考えています。60歳での教育は難しいかもしれませんが、自分の強みや得意なこと、面白いと思うこと、わくわくすることの発見は、より良いセカンドライフのために必要なことです。自分の強みが分かっている人は幸せです。一番良いのは、強みと弱みを分かっていて、自分の弱みを補える人、自分と異なる強みを持っている人と協力し合うことです。

全体俯瞰的な視点からあらゆる課題の解決を目指す慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)では、プロジェクトを実行するとき、目的を明確にし、いつまでに何をするかしっかりと計画を立てるようにと教育します。しかし、自分の人生について計画を立てられない学生がいます。SDMで学んだ方法を使い、人生も設計できるようになってほしい。だから僕は、幸福学を研究しているのです。

みんなの幸せのために

20代は利己的欲求が一番強く、利他的欲求は年齢とともに上がっていきます。それは健全なことだと思います。20代は、名誉欲や金銭欲で自分を高める時期でもあります。それをドライブにして自分を高めた後に、利他性が高まっていくのがおそらく良い人生と言えるでしょう。一番良いのは、若いうちにお金や地位に関することすべてを経験してみることかも知れません。手に入れてみると、明らかにそれだけが幸せではないと分かります。若いうちから利他的な人もいますが、それだけでは幸せではない場合もあります。基本的には、年齢と共に利他的になっていく生き方が良いのではないかと思います。

僕は利己的欲求がある程度満たされたためか、あるとき、平和で幸せな世の中を作るためにベストな生き方をすると決めました。決めると人生がシンプルになり、悩むこともなくなり、今とても幸せです。人とのつながりがあり、僕自身が必要とされ、みんなの幸せのために社会へフィードバックする。これからずっと、80歳になってもこの生き方をしていたいと考えています。

インタビュアーの杉山大輔さんに「平和で幸せな世の中を創るためにベストな生き方をすると決めました」と言ったら、リーダーになっている人は、「○○しようと思う」ではなく「○○すると決めた」と言うのだと指摘頂きました。彼も、「決めて」いる人だと思います。日本人には、幸せの3つ目と4つ目の因子(前向きと楽観、独立とマイペース)が弱い人が少なくないですが、彼は、これらが抜群に強いですね。幸せの条件を満たした人だと思います。杉山大輔さんが、これから、平和で幸せな世の中を創造するために何をするのか。楽しみです。

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 研究科委員長・教授 前野 隆司


拙著『行動する勇気』が発売されてから2年、講演会やセミナー、個別相談などで、「杉山さんはなぜ行動できるのですか?」という質問が多く、なぜ行動できるのか分析してみました。結論は、“ハッピーだから”です。ハッピーな人は行動を起こせます。ハッピーだから自分に自信を持ち、何度でもあきらめずに挑戦できるのです。反対に、行動しない人は素直ではなく、言い訳名人だということにも気づきました。
では、どうしたらハッピーになれるのか?顔からハッピーが滲み出ている、前野隆司教授に伺うことにしました。そして、ハッピーには方程式があり、それを実行すればより良い人生を過ごせることが分かりました。happy people live longerは、まさにその通りだったのです。是非一度、先生の著書を読んでみてください。
僕は昨年から、ハッピーな人の傾向や社会で活躍している人の対面調査をしています。データが集まったら、“杉山大輔ハッピーメソッド”としてまとめようと思っています。

「私の哲学」編集長 杉山 大輔

2016年8月 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科 日吉キャンパスにて
編集:楠田尚美  撮影:Sebastian Taguchi

index