インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第26回 宮坂 学 氏

2年前、44歳で社長に就任し、大抜擢と話題になった宮坂学氏。"爆速"をスローガンに掲げ、スピード重視の経営姿勢で組織を引っ張っている氏に、人生における働き方などについてご自身の考えをお話しいただきました。

Profile

26回 宮坂 学(みやさか まなぶ)

ヤフー株式会社 代表取締役社長
1967年生まれ。同志社大学経済学部卒業。大学卒業後、雑誌『Esquire Japan』、『i-D JAPAN』などを手掛けていた株式会社ユー・ピー・ユーに入社。1997年、設立2年目のヤフー株式会社に転職する。2002年メディア事業部長、2009年執行役員コンシューマ事業統括本部長、2012年4月CEO就任を経て、2012年6月より代表取締役社長としてYahoo! JAPANの舵を取る。
※肩書などは、インタビュー実施当時(2013年2月)のものです。

2年前、44歳で社長に就任し、大抜擢と話題になった宮坂学氏。”爆速”をスローガンに掲げ、スピード重視の経営姿勢で組織を引っ張っている氏に、人生における働き方などについてご自身の考えをお話しいただきました。

人生は”株式会社俺”のマネジメント

人間って行動に意義を求める生き物だと思います。ルーティンのことでも意義がないと頑張れないし、人格的にも壊れてしまいます。だから必ず意義を求めるのではないでしょうか。僕も「何で働いているんだろう」と考えたことがありました。そんなとき、ダライ・ラマ氏の本を読み1ページ目に書いてあった、「人生の目的は幸せになることだ」という言葉が心に響きました。いくら仕事で成果を出したとしても、家庭崩壊してしまっては良くないし、トータルで幸せにならなければと思いました。働くのは、自分や周りの人が幸せになるためです。しかし、人生は仕事だけではない。仕事は重要ですが、家族や趣味など仕事以外にも大切なことがある。僕は、“株式会社俺”という意識を持っています。これは自分にとっての幸せが最大限になるように、自分自身の経営者になるということです。僕の“株式会社俺”には、会社事業部、家族事業部、アウトドア事業部があります。学生の頃から続けている大好きな山登りは、自分にとって歯を磨くのと同じようなものでやめられません。

会社は時価総額で評価されますが、“株式会社俺”の場合は幸せの度合いだと思います。もしアウトドア事業部をなくしたら、幸せの時価総額が下がる気がしてならないんです。上手くトータルをマネジメントして、死ぬ時に自分の幸せ度がピークになるのが一番いい。社長でいるときが幸せ度MAXで、そこから下がってしまったら、たぶん人生の経営大失敗みたいな感じでしょうね。死ぬ1秒前に、幸せの時価総額がピークになっているのが理想です。そうすると、生きていて良かったと人生を終えられる気がしますし、そうなったらいいですね。

社員が輝ける組織に

僕の祖父は34歳のときに戦死しました。自分がその年齢を越えたとき、それまで“祖母の家に写真が飾ってある人”くらいの認識でしかなかった祖父の死が、一気に自分事になり、この歳ではまだ死にたくないと強く思いました。そんなこともあってか、出張で出掛けたアメリカに向かう飛行機の中で、突然ノートにお通夜の絵を描いてみたんです。誰に来てほしいか、場所はどこがいいかなど、いろいろ考えました。そうすると、この人に来てもらいたかったら仕事だけでなく、彼と過ごすことにも自分の時間を割り当てないと、もしかしたら生まれ故郷の友達は一人も来なくて、会社の人しか来ないかもしれない。そうなってほしくないと感じたことも、“株式会社俺”の考えに結びついています。
社内には、“株式会社俺”の意識がない人もいるでしょう。いくら面接の時に、「頑張ります!」と言って入社しても、長い会社人生の中には辛い経験が続いて、仕事に対する意欲がなくなってしまうこともあると思います。実際、仕事に興味がなくなり、プライベートに比重をおいている人もいます。それはその人のスタイルなので、それでも僕はいいと思うんです。けれど自分の会社は、不幸な経験をすることなく、誰もができるだけ入社試験時のキラキラした気持ちのままで働ける組織にしたいと思っています。

次の世代を育成

自分の仕事の一つには、40歳の社長を育てるというのがあります。海外を見ると、IT関連企業は30代の社長が多く、44歳でなった僕は決して若くはありません。40歳の社長を作るとすると、大学新卒から18年あります。その間にどのような経験を積ませるか、逆算して計画を立てないといけない。ネクストリーダー候補が出てくるのを待つのではなくて、見つけたり、育てたりしないと、確率が悪くなってしまうと考えています。社長に向いている人材は、自分のライフキャリアの中で、仕事へのフォーカスが高い人です。逆に仕事の比重が高くない人が社長になると、その人自身や周りの人が不幸になってしまうと思います。あとはなりたい人よりも、周囲からなってほしいと思われる人がいいですね。

僕自身は、1年、1年が勝負と思っています。そろそろ交代した方がいいと言われたらスパッと辞めるつもりでいつも準備しています。その一つとして、次世代を育てることは自分の責任です。社長というのはいろいろと苦労が多いです。でも、経験って砥石みたいなものじゃないですか。楽なことばかりしていては成長できません。ある程度のざらつきがないと磨かれないですから。社長のオファーがあったとき、断って自分で起業するという選択もありました。大変な道を選びましたが、社員みんなの頑張りもあって今のところ結果が出ていますし、良い経験をさせてもらっています。

自分で決めて行動する

経営だけでなく、人生において大切なことは、徹底的に自分に忠実でいることです。あまり自分らしくないことをしてしまうと、上手く行ったときはいいですが、失敗したときに後悔します。自分で居続けることは歳を重ねるごとに難しくなりますが、できるだけ自分の軸は見失わないようにしたいと思っています。あとは“アサインではなくチョイス”。誰でも“株式会社俺”、“株式会社私”の社長です。だから、いつも最終的には自分で決めることが大切です。
例えば大雪が降った日、電車が止まるのは明らかでしたし、僕はみんな早く帰ればいいのにと思っていたんです。でも社員は、会社から命令がないと帰れませんと言う。人から言われるのを待つのではなく、帰るかどうか自分で判断する。キャリアも含めて、いろいろなことを自分で決めてほしいと思います。仕事にウエイトをおいて仕事をしまくる。あるいは育児や介護にウエイトをおいて、限られた中で仕事を頑張る。どちらもチョイスです。6千人規模の組織では、社員全員がモーレツに働くことは無理ですし、それは器の小さい組織です。会社に対する自分の時間のウエイトのかけ方はいろいろあっていい。今年は仕事を頑張る年にしよう、子どもが生まれたばかりだから仕事は抑えようなど、一人ひとり常に自分で意思決定する。そして、そのチョイスの中でそれぞれがベストを尽くしてもらいたいと思います。

宮坂さんがおっしゃっていた、“株式会社俺”のコンセプトはとても共感できます。これは、人生においてやはりバランスがとても大切だと考えているからでしょう。会社を経営している立場だからこそ、「時価総額」という観点をご自身に 照らし合わせ、そのように行動をしているのだとインタビューを通して思いました。現状に満足せず、常に一歩先を考えて行動することで、振り返ったとき形になります。

ヤフーの経営陣が変わり、「爆速」をキーワードに事業展開しているお話を聞き、弊社も負けてられないと気持ちを新たにしました。今年、株式会社杉山大輔は複数のチャレンジをしますが、全体のバランスを考え、常に毎年時価総額が上がるように攻めの姿勢を貫きたいと思います。

『私の哲学』編集長 DK スギヤマ

2014年2月 ヤフー株式会社にて  編集:楠田尚美  撮影:鮎澤大輝