インタビュー・対談シリーズ『私の哲学』
私の哲学Presents
第8回 高橋 百合子 氏

思いがけない仕事の依頼からキャリアをスタートさせ、今日まで数多くの実績を残されてきた高橋百合子氏。ご自身のキャリアを振り返りながら、仕事に取り組む姿勢、新会社のあり方についてお聞きしました。

Profile

8回 高橋 百合子(たかはし ゆりこ)

E.OCT株式会社 代表取締役
立教大学文学部卒業後、読売新聞社に入社。1987年に株式会社オフィスオクトを設立し、広告制作や展示会のプロデュース、リゾート計画立案から建築コンセプトづくりまで幅広く業務を手がける。1990年、スウェーデン オーワック社の日本総販売代理店となる株式会社エンヴァイロテックを立ち上げ、環境機器の輸入販売を開始する。その功績が認められ、2000年にSwedish Trade Council Grand Awardを受賞。2011年1月、株式会社オフィスオクトと株式会社エンヴァイロテックを一つにし、E.OCT株式会社として“環境に配慮されたサスティナブルな社会づくり”を目指し、エコデザイン商品、リサイクル関連の事業を展開している。

※肩書などは、インタビュー実施当時(2011年4月)のものです。

キャリアのスタート

大学を卒業した1971年は、マクドナルド日本1号店のオープンや、雑誌an・an創刊といった年でした。当時、読売新聞社は銀座にあったので、毎日のようにショッピングと美味しいお店での食事を楽しんでいました。それがすぐに現在の大手町に社屋が引っ越してしまい、つまらなくなってわずか1年半で辞めてしまいます。その後結婚し、特に仕事はしていなかったのですが、ある時突然、読売新聞社の広告局から高島屋の新聞記事広告を作ってほしいという依頼が来ました。これが私の本格的なキャリアの始まりです。

 この広告制作をきっかけに、ちょうどバブル期と重なったこともあり、あらゆる仕事が舞い込むようになります。それまでやったこともないリゾート計画の立案や、展示会のプロデュースといった仕事もありました。特に専門といえる分野があったわけではなく、どのようなことでも頼まれたら迷わず引き受けていました。基本的に新しいこと、知らないことにチャレンジするのが好きで、初めての仕事でも「私にはできない」などと思わずに取り組んできたことが、様々な仕事の受注に繋がったと思います。あの時、新聞社から仕事の依頼がなかったら、おそらくずっと主婦のままでいたことでしょう。

ORWAKとの出会い

高島屋の新聞広告から3年くらい経った頃、例えばリゾート計画を立てても、最後のアウトプットに私が関わることはなく、計画の細部を理解できていない人たちがオペレーションすること。すべての打ち合わせに私が顔を出さなくては、クライアントが納得しないといった状況に疑問を持つようになります。だからと言って、特別他にやりたいことがあったわけではないのですが、何かが違うと感じ始めていました。

そんな時、友人との何気ない会話の中に出た、「ゴミが小さくなるものがある」という話にとても興味を引かれます。それが、ヨーロッパで40年もロングセラーになっている、スウェーデン製の”コンパクター”でした。90Lのゴミ袋5つ以上がコンパクターで圧縮すると、ゴミ袋1つ分の量にまで減ってしまうのです。初めて見たとき感動してしまい、すぐにスウェーデンの本社へ手紙を書き、1990年、株式会社エンヴァイロテックを立ち上げます。営業のノウハウなどわからないまま始めましたが、新聞社にお願いして”新製品コーナー”に掲載されたことがきっかけで、あちこちから問い合わせの電話をいただきました。そうして20年経ち、現在では約3,500カ所に納入しています。

日本における環境意識の変化

エンヴァイロテックをスタートした1990年から95年までの間は、今で言うニュアンスの環境という言葉が新聞に出るのは、一週間に1つ2つあるかどうかといった感じでした。それが今のように、毎日必ず環境関連の話題が載るようになったのは、1997年に施行された”容器包装リサイクル法”が一つのきっかけになっていると思います。それ以前、ペットボトルはゴミとしてすべて廃棄処分されていました。容器包装リサイクル法は、世の中のゴミの大部分を占める容器、パッケージ類をきちんとリサイクルしようという法律で、施行されたこの年が日本のリサイクル元年といえるでしょう。

1993年、PETメーカーや飲料メーカーが一緒になり、”PETボトルリサイクル推進協議会”を設立します。当時はまだ1.5lしかなく、当然メーカーとしては軽くてフタもできる便利な500mlを作りたい。しかし、ゴミとなっている現状では国もいい顔をしない、よって協議会は日本で最初のペットボトルリサイクル工場を栃木県につくりました。次に、関東各地の自治体に対し、ペットボトルの分別回収をお願いします。その結果、いくつかの自治体が賛同したものの、栃木県の工場までどうやって運ぶのかという問題が出てきました。かさばるペットボトルは、そのままでは10tトラックに500kgくらいしか載りません。たった500kgを運ぶために10tトラック1台を動かすのは効率が悪く、そこで、圧縮機械の必要となるわけです。協議会が数社に機械の製作を依頼している話を聞き、私の会社も無理矢理コンペに参加させてもらい、日本のメーカーを説得して小型の穴あけ機能付き圧縮機を開発しました。結局、この当社だけが作った小型機械が一番売れ、百カ所以上の自治体に入れていただきました。その辺りから、日本にもエコやリサイクルという意識が根付き、環境が大切という感覚が芽生え始めたように思います。

環境に良いということ

 消費者は、感覚的に良いなと思った物を買います。「環境に良いからこれを買いなさい」と言われたら、「結構です」となってしまう。誰だって自分の好きな物を買いたいのです。環境を前面に出しても購買には直結しません。消費者は特別なことを考えずに自分の好きな物、本質的な快適さを追求することがポイント。例えば、暑い夏のエアコンはすごく気持ちがいいけれど、大きな木の木陰に吹く優しい風と、どちらがサスティナブルで、どちらを選びたいかといったら本質的に気持ちの良い木陰の風です。エアコンの涼しさは瞬間的に快適ですが、環境にも身体にも良くありません。私が目指すのは、”本質的な気持ち良さ”。進歩していく文明に逆らわなくても、本質的な気持ち良さの追及はできると思っています。そうすると、環境のためにと我慢や無理をしなくても、必ず良い結果が生まれるというのが私の考えです。無理をしても絶対に続きません。常に笑顔が生まれる状態でなくては、環境に良いとはいえないのです。

私の哲学

2つの会社を一つにするとき、会社の基礎を改めて作ることにしました。何が大事かを自分自身に問いかけてみると、「地球環境のサスティナビリティーに貢献すること」に行き着きました。そして何より、一緒に仕事をしているチーム、社員一人ひとりが幸せで生きがいを感じ、豊かな暮らしを実現していくことが、私にとって一番の幸せだと思い至ります。1日24時間のうち、ほとんどの時間を会社に使うわけですから、そこが幸せでなくて何が幸せなのでしょう。この考えに共感してもらえる人が集まって、多くの環境に良い商品を世の中に出していく。私たちの気持ちは、そうして商品から消費者に伝わり地域へと広がって、ひいては社会全体の大きな変化へとつながっていくと考えています。これがE.OCTが存在する価値であり、目的です。

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一生懸命、気持ちを込めて仕事をする姿勢。謙虚に、そして感謝の気持ちを忘れずに仕事をすることなど、人生の先輩として多くのことに共鳴いたしました。エネルギーが溢れ出ている方で、一緒にいるとワクワクします。ワークライフバランスを有言実行できている、素晴らしい経営者にお会いできたインタビューとなりました。

『私の哲学』編集長 DK スギヤマ

2011年4月 E.OCT株式会社にて  編集:楠田尚美  撮影:鮎澤大輝